総論
◆第44節 用語の約束
第44節 用語の約束
この本での、言葉の約束を定めておきたい。
〔
サーバー
〕
相手に対し、動作を与える側
〔
レシーバー
〕
動作を受ける側。
〔
はえ際顔面
〕
〔
眉間顔面
〕
〔
後頭部
〕
〔
後ろ首
〕
〔
手足の各部分名称
〕
次図のとおり。
[
背筋
][
脇筋
][
胸筋
]
次図のとおり
〔
重心垂線
〕
身体でも物体でも、そのものの重心を貫く垂線
〔
重心下点
〕
重心垂線と床面の交点
〔
眼 点
〕
人の目には、瞳孔(どうこう)がある。
瞳孔の中心点を手でさわることはできないが、その位置はわかる。
で、左右の目の、それぞれ、瞳孔中心点を直線で結ぶと、その直線は、だいたい大人で、6.5cm。顔の中を通り抜ける。で、この直線の中点を取ると、それは、鼻のつけ根の中に入る。
この点を“眼点”と名付ける。
〔
眼 下 点
〕(がんかてん)
人が、どういう姿勢をしておろうと、その人の眼点から垂線を降ろし、床(ゆか)面と交わった点を取る。
この点を“眼下点”と名付ける。
〔
身 長
〕(しんちょう)
身長計に、靴をはいたまま、“気を付け”の姿勢で立ち、頭髪を上から押しつけず、また、帽子をかぶっていれば、それを脱がず、身長を測ったものとする。
これを“身長”と名付ける。
“身長”は、よって、靴のヒールの高さ、頭髪の厚み、帽子をかぶっていれば、その厚みによって、つまり、同1人物であっても、服装の具合によって、異なる。
〔
水平身長
〕
“眼下点”から水平に、いずれかの方向に、“身長”だけ延ばした長さをいう。
〔
水平半身長
〕
“眼下点”から水平に、いずれかの方向に、“身長”の1/2だけ延ばした長さをいう。
たまたま、腕を水平に伸ばした長さが、これにあたる。
〔
身 長 域
〕
"眼下点”から、半径を“水平身長”とする円を描いたとき、その円の中を“身長域”と名付ける。
〔
水平自身長
〕
いま、自分と相手がいるものとする。
このとき、自分のほうの水平身長を、水平自身長と呼ぶ。
〔
水平他身長
〕
いま、自分と相手がいるものとする。
このとき、相手のほうの水平身長を、水平他身長と呼ぶ。
〔
水平長身長
〕
いま、自分と相手がいるものとする。
このとき、自分か相手か、いずれか、身長の長い者のほうの水平身長を、水平長身長と呼ぶ。
〔
水平短身長
〕
いま、自分と相手がいるものとする。
このとき、自分か相手か、いずれか、身長の短い者のほうの身長を、水平短身長と呼ぶ。
〔
脱帽空間 HATS−OFF−SPACE
〕
〔
着帽空間 HATS−ON−SPACE
〕
着帽空間は、男子が帽子をかぶっていてよい空間。
脱帽空間は、それを脱がねばならぬ空間である。
〔
こちらから左(右)
〕〔
そちらから左(右)
〕
“こちらからひだり”と申せば、“わたくしから見て左側”を意味し、“こちらからみぎ”と申せば、“わたくしから見て右側”を意味する。
“そちらからひだり”と申せば、“あなたさまから、ご覧になって、左側”ということばを詰めたものであり、“そちらからみぎ”と申せば、“あなたさまから、ご覧になって、右側”ということばを詰めたものである。
〔
この方(かた)から左(右)
〕
相手にものをいうとき、すぐそばに第三者がいて、その第三者から見ての左(右)をあらわしたいときの表現方法である。
〔
あの方(かた)から左(右)
〕
相手にものを言うとき、少し離れたところに第三者がいて、その第三者から見ての左(右)をあらわしたいときの表現である。
〔
時計回り
〕
みんなの前に、大きな時計の文字盤が空を向いて置いてあるとの前提に立つ。
この時計の針と同じ方向に回していくことを指す。
この“時計回りで”という時、回り始めが、誰であるかを申さないと、わからなくなる。
「それでは、山田さんから、時計回りで……」といった表現。
このことばと類似のものに、「“の”の字回り」があるが、この〔“の”の字〕という発音が、みんなの中で、聞き取りにくい事情があって、わたくしは、これを避けている。
もう1つ、「マージャン回り」というのもあるが、改まった席では、具合が悪い。
〔
時計と反対回り
〕
これは、時計回りの反対方向に回すことである。
話者「おそれ入りますが、山田さんから、時計と反対回りで……」
〔
遠慮期間
〕
落語にある話。人物
A
と人物
B
が、お辞儀をしあっていた。
A
が頭を上げてみると、
B
が、まだ下げている。
で、
A
は、「これは、したり」と、また、下げた。
B
が頭を上げてみると、
A
が、まだ、下げている。
B
も「これは、したり」と、また、下げた。
こういうシーソー・ゲームが行われ、
A
と
B
のお辞儀は、果てしなく、続いた。
が、これは、人間システムの中に、必ず、生ずる1つの、うるわしきクセであり、落語は、これを誇張している。
礼を尽くしあって、時間のかかり過ぎた大きな例を挙げよう。
神聖ローマ帝国皇帝がホーヘンシュタウフェン家の時、1254年に絶えた。
それから、18年間、各王家は、ゆずりあい、当番制で皇帝業務代行をやっていた。
が、どうも、国民が、迷惑する。
で、ハプスブルク家を世襲皇帝と決め、1273年からはハプスブルク家だけが皇帝を引き受けることとなった。
この18年間を大空位時代と呼ぶ。
同じような、さらに徹底した例は、古代日本にもある。
応神天皇は、亡くなる1年前に、末子「うぢのわきいらつこ」を皇太子と定め、その兄「おおささき」をその補佐と定められた。で、亡くなった。
「うぢのわきいらつこ」は当然、天皇になられるべきところ、自分より経験から、識見から、はるかに、すぐれた兄「おおささき」に、どうぞ、先に天皇とならせたまえと、ゆずられた。
が、兄「おおささき」は、「筋が違う。天皇の位は、当然、皇太子が継ぐもの。自分は家来である。それを、崩すと、人心が混乱し、国中が乱れる」と受けられない。
こういうことで、譲りあいが3年間、つづいた。
その間、貢物を持って来たものがとまどい、別の大混乱を生じてしまった。
3年、経った、ある日、悲劇が起こった。
「うぢのわきいらつこ」が自殺してしまわれた。
「自分は死んで、この結着をつける。兄よ、天皇とならせたまえ」
涙ながらに、「やむを得ぬ」と天皇になられた「おおささき」が、こん日、仁徳天皇と呼ばれ、その世界一の大古墳に収まっておられる方である。
余談であるが、第2次大戦敗戦後の日本歴史の教科書では、この大古墳を、天皇制が、組織化された奴隷労働力をかり立て、バカなものをつくった標本であると教えていた。
人の見方は、さまざま。
もとより、大陵墓の設計も、工事システムもなしに、築き得るものでない。
そこに、ただ、自発的勤労奉仕者が、ごたごたと、めいめい、やり合っていたと見るのもナンセンスである。
が、仁徳天皇は、3年間、租税免除を敢行され、そのため宮中が、雨漏りだらけになっても放置されたとか、そうかと思うと、淀川河口部の大干拓をやって、米の大収穫を図られたとか、思い切った業績を残されている。
で、この日本にも、空位時代が3年間、あったということ。
こういった3年とか18年とかいう空位をつくらないためのシステムを、こん日、諸国の憲法などが規定しているかと見ると、必ずしも、そうでない。
で、「空位」といった大きな社会現象については、このくらいとしよう。
A
と
B
が、電話で話していて、お互いに、「では、さようなら」といい、それぞれ、電話を切ることになった。
A
は、
B
が切ったならばと思って、自分は切らないで待っていた。
B
も同様であった。
で、お互いに、じっと、待っていて、時間が経って行った。
で、また、話をした。
A
「もしもし」
B
「はい」
A
「どうぞ、お切りください」
B
「はあ、やあやあ。どうも。では、ごめんください」
で、
B
が切り、
A
も切った。
こういったことは、現代でも、ときどき、起こる。
握手について考えよう。
握手は、現代、目上が目下に対して、与えるものとなっている。
そのため、うっかり、先に手を出せば、自分が目上であることを宣言した結果に陥る。
で、双方ともに、遠慮していて、結局、握手しないで終わってしまう。
もう少し、無邪気なのもある。
マンジュウが10個出された。そこにいる人数は9名。
で、1個残った。
みんな、遠慮していたところ、残ったまま、下げられてしまった。
で、これらを、どうするか。
わたくしは、自分で、勝手に、遠慮している期間を定めている。
この期間の長さをみんなで協定して定めると、その期限切れに、1つのトラブルを生ずるから、めいめいに、黙って、決めておいたほうがよい。
「空位」をつくらないのとは別であるから。
この期間を、わたくしは「
遠慮期間
」と呼んでいる。
あとでも申すが、電話を切るまでの遠慮期間を、わたくしは、「3秒」としている。
握手についての遠慮期間も「3秒」である。
3秒経って、相手が手を出してこなければ、こちらが出す。
マンジュウのほうは、このあとに、書いてないが、「10分間」ぐらいか。
その前に下げにきたときは、あきらめる。
10分経って、下げられもせず、みんなも、我慢しているならば、わたくしは、黙礼して、おもむろに、それを取り、頂戴する。
一瞬の差で、誰かに、取られたならば、わたくしは、「このごろのお天気は……」などと、他のことを言う。
ある年、こんな話を教室でしていた。
そのあと、3名の研究生が拙宅に来られた。
家内が、レモン・パイを出してきた。
わたくしを込めて、一切れずつ食べたところ、1つ、残った。
わたくしは、紅茶をのみ、たばこを一服つけて、統計学の話をし始めた。
しばらくすると、3名の研究生がいっせいに、お辞儀をされた。
こちらは、統計学上のことかと思った。
3名が、いっせいに、パイに手を出された。
が、うち1名が、速かった。
残りの2名が、にわかに、「このごろのお天気は、どうも。ときに、気象統計学では……」
ただ、食べている研究生だけは、別のことを申された。
「お茶を、もういっぱい」
その翌年、次の期の研究生がたにも、教室で、この話をし、「そこで、諸君、遠慮期間は、めいめいに定めておかれることがよい」と申し上げた。
が、しばらくして、拙宅で、また、3名。家内が、水ようかんのようなものを出してきた。
どうも見ていると、家内は、人数分より1個ずつ、よけいに出してくる。
で、それが、1つ、余ったと見るや、1名の研究生が黙礼して、いんぎんに自分の皿に取られた。
黙っておられればよいものを、「わたくしの遠慮期間は、すべて、3秒と決めております。ごちそうさま」で、みんな大笑い。
パイやようかんのとき、3秒では、短過ぎるように思うが、テーマごとに、遠慮期間を、定めておかれたほうがよい。
〔
Ripple Service (波紋サービス)
〕
集団で、お辞儀、その他を行なうとき、最前列、中央の者から、10mにつき約1秒の速度をもって、同一動作の開始時点を伝播せしめてゆくこと。
この効果は、集団の体質が、柔らかく、たくましいものに見える。
また、これを、日常、行なっている集団員は、時差行動のタイムの把握が鋭敏となる。
このリップル・サービスを使った集団作法は、この本(第3版)では、出てこない。
特別作法心得のほうには出てくる。
が、ここで、一応、触れておくものである。
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総論
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そこまでやるのか。そこまでやるのである
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作法研修先での注意
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この本の編序
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