総論 ◆第21節 作法と自然さ
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第21節 作法と自然さ


  1. 人が、自然に振る舞って、それが、相手に、不快感を与えず、快感を与えるならば、それは、作法と呼ぶ必要のないものである。

  2. 作法であるかぎり、なんらか、不自然なものである。その不自然さの低級なものをA作法と呼んでみよう。

  3. が、美を追及するうち、いっそう、不自然になっていき、一部の者にしかわからない味のものとなっていく。これをB作法と呼んでみよう。

  4. で、人々は迷い、B作法からの第1のベクトルとして、いっさい、不自然な行為をやめようと考える。自然主義の動機は、ここから生ずる。

  5. が、自然に戻してみても、いっこうに美しくならないことに気づいたとき、B作法から第2のベクトルとして、“不自然に振る舞っていながら、自然に見えるようなトリックを用いること”に凝りはじめる。これをC作法と呼ぼう。

  6. 人は、なるべく、A作法で振る舞っており、それでダメなとき、C作法を使うのがよい。

  7. C作法とは、バサバサと茶漬けをかき込むが、箸の先を1分(ぶ)(3.3mm)しか、ぬらさないとか、美味でない料理を、いかにも美味であるかのように食べて見せるとか、ガタピシのイスに、ゆったりと腰かけて見せるとかいったことで、これらを「破(は)」の芸とか、「暗夜名月の芸」とか呼ぶ。「暗夜名月の芸」というのは、月の出ていない、まっくらな晩に、明るい月夜であるかのごとく振る舞うということ。

  8. 芸の道は、1人の人物の場合でも、また、100年、200年といった、その道の歴史の場合でも、だいたい、以上のような流れ方をする。

  9. 作法の不自然さが、相手に感じられたとき、多くの場合、相手は、窮屈なものに感じる。
    あるいは、非人間的なものに感じる。

  10. 身についていない作法は、百害あって一利なし。

【参考】

ある年、東京のあるホテルの課長であられる本校の先輩から、間接的に、わたくしの作法の教え方につき、忠告があった。それは、次のようなことである。
「当ホテルの新入社員に、2名のホテル学校卒業生が、含まれていました。その2名は、姿勢もよく、言語もはっきりしていましたから、新入社員オリエンテーションのとき、交替で、司会役を勤めてもらうことにしたのです。ところが、形だけの礼儀作法と司会進行の技能があるだけで、一座へのヒューマン・タッチがないのです。ホテル学校で、こういう教育を受けてきたことを、不幸に思うのです」
わたくしは考えてみた。その2名は、平素、すこぶるヒューマン・タッチの、むしろ、過多な人物であったから、不思議に思えた。
で、わかったことは、この2名が、「固くなった」ということである。
また、この2名が、平素、本校で、作法時間にだけ行儀よくしていたグループの中の2名であったことも思い出した。
作法が、板に付いていないから、改まったとき、固くなる。で、ヒューマン・タッチどころでなくなる。
で、ここに、関係のないようなことを述べるのであるが、車の運転を固くなって行なっていると、事故に至る。では、固くならないために、諸操作をいい加減にやっていれば、やはり、事故に至る。
どうすればよいかと言うと、正確な動作を、いつも、行なっていることである。すると、いつとはなしに、その正確な動作が板に付いて、ソフトな弾力のある運転を生み出すことになる。
作法も同じであって、相手側に、これらの作法を感じさせるようでは、まだ、作法としてできていない。
なんとなく感じがよく、打ち解けあえるという「見えない作法」が、本物の作法なのである。


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