総論 ◆第18節 心と型
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第18節 心と型


  1. 作法とは、「型」であるが、その中心は「心」である。「思いやり」の心といってよいが、もうすこし、くだこう。

  2. 「真心」と「慎み」である。

  3. 「真心」について、少し、述べよう。
    Entertainer(エンターテーナー)という言葉を知っておかれよ。
    「もてなしびと」と訳してもよい。
    が、この言葉の気持ちは、相手の気持ちになって、思いやる心の持ち主ということである。
    が、これでも、まだ、言葉の気持ちが、よく出ていない。
    「親心(おやごころ)」を持って、相手を扱う者ということ。

  4. Entertainer は、相手に甘えさせる。
    Entertainer は、「わたくしにお頼りなさい」というムードを持っている。

  5. 「慎み」とは、固くなっていることでない。固くなると、相手は、打ち解けない。 慣れても、狃(な)れないことである。

  6. 「心」があれば、「型」は、ついてくるか。ついてこない。
    ここには、技能について、知り、訓練することを必要とする。

  7. 「心」があれば、「型」は、どうでもよろしいか。ダメである。
    作法は医術のようなものである。下手な作法は、下手である。作法は、相手のために行なうものである。その相手が喜ばない。

  8. しかし、次のような場合はどうか。

    1. よその家の子供が遊びに来ていて、こちらのガソリン缶のそばでマッチに火をつけた。
      で、こちらは、飛んでいって、その子供を突き飛ばし、マッチの火を踏み消した。
      子供は、すかさず逃げて帰っていった。その子の親がやって来た。 「うちの子が、何をしたか知らないが、どうして、こんなにけがさせるような手荒なことをしたのです!」
      子供が爆死するのと、軽いけがをするのと、どちらがよいか。子供にけがをさせたほうが、作法にかなっている。

    2. ホテルが火事になった。火がまわっていたので、従業員は部室のドアを叩き壊し、寝ていた客を、そのままの姿で、非常口に追いやった。客が寝ぼけているので、頬っぺたを、2つ、殴ってやった。客の着物も荷物も、すべて焼けたが、客の身体はどうもなかった。この従業員は、不作法であったか。
      この従業員は、大きな作法にかなっている。

  9. このように考えてみるとき、「心」があれば、「型」は二の次の場合もある。

  10. では、「心」がなくて、「型」だけ上手なのは、どうか。世間では、これをも作法と見ているかも知れない。が、これは、作法でない。
    しかし、これを作法と見るから、「作法など、くだらない」ということにもなる。

  11. 「心」がなくて、「型」もめちゃくちゃなのは、どうか。これは論外。

総論
[エージェントマンに作法は要るか] [作法とは] [作法の目的の分解] [作法は自分のためならず]
[「われわれ」の伸縮] [「より外なるわれわれ」のために] [互恵主義] [作法は森羅万象のためのもの]
[品物を大切にせよ] [与えられた文明には心が乗りにくい] [ゴツイ人物のやり方]
[自分自身がどうしてよいか分らないとき] [どうしようか迷っている相手に対しては]
[作法的なつもりで無作法を行なう者をどうするか] [改まり方・くずし方] [作法とサービス]
[作法と生産性] [心と型] [動機論か結果論か] [媚と反媚] [作法と自然さ] [作法の流儀]
[統一型作法と並列型作法] [欧米との流儀の融和] [アメリカ作法を見誤るな] [一般と特殊]
[3種類の動作] [作法と体型] [作法と風習] [作法と大衆] [作法と女性] [異なるセックス意識]
[作法とヤング] [雑音を嫌う] [あとしまつの技術] [縮小化のわきまえ]
[そこまでやるのか。そこまでやるのである] [作法のために頭が痛くなれ] [教授法での注意]
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