総論 ◆第42節 この本での対象作法の限定
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第42節 この本での対象作法の限定


  1. 1つの国の作法を、次のように段階分けしてみよう。

    第1種作法
    その国の大学教育までで、作法と認めていると思われる事項
    (例: ビルの床に啖を吐くな……これは、吐いても、公共空間でないから、軽犯罪法に触れない……)

    第2種作法
    その国の大学教育までで、とやかく、いわないが、国民中、26〜50%が作法と認めていると思われる事項
    (例: 人前で、鼻毛を抜くな)

    第3種作法
    国民中、13〜25%が作法と認めていると思われる事項
    (例: 口をあいたまま、音を立てて、食べるんじゃない)

    第4種作法
    国民中、7〜12%が、作法と認めていると思われる事項
    (例: 食べながら歩くんじゃない)

    第5種作法
    国民中、4〜6%が、作法と認めていると思われる事項
    (例: 電話のある相手には予告してから訪問せよ)

    第6種作法
    国民中、3%以下が、作法と認めていると思われる事項
    (例: 横目を使うな)


    この本では、まず、日本での第5種作法のみを扱っている。

    第1〜4種作法は、本校研究生の場合。申し上げなくとも大丈夫。(ときたま、どうしたのかと思われるようなことを示される方があるが、そういうときは、個人的に、ご注意申し上げれば足りる)

    次に、第6種作法については、観光産業マン幹部として必要と感ぜられる分のみを扱っている。この中には、欧米で、第3〜4種作法に該当している事項が、いっぱいある。
    それも、次のに分かれる。


    1. 各国では第3〜5種作法であり、敗戦後日本が、この面で低下しているため、第6種作法とされている事項
      (例 咳をするとき、下を向いて、ハンカチーフで口を覆う)

    2. 各国では第3〜5種作法であり、日本には、そのことが伝わっていないため、第6種作法となっている事項
      (例 ズボンのポケットに手をつっこんだままでいるな)

    これらはこの本に含むよう努めた。

  2. しかし、このうち、について、いったい、どうして、日本国民一般に知られていないのであろうか。これほど、世界中の情報が、洪水のごとく、日本に流入しているというのに。その理由を考えてみると、次のような事情が思い当たる。

    1. 日本に来て、3日以上経った外人は、日本という不作法天国を謳歌して、みずからを日本水準に落としている。

    2. 日本で放映されているテレビの海外事情や外国映画が、欧米一般水準より、ぐっと、落とした水準を、欧米の庶民・大衆の姿であるとして伝えていること。つまり、この種の情報機関はNHK以下、視聴者に「教育している」印象を与えることをタブーとしているから。

    3. 欧米の政治家の中には民衆の前で、故意に不作法を演出している人物の多いこと。日本人が、これを見て、かれらの日常であると思えば、大間違い。

    4. 海外旅行に出て、1年以内の日本人や、長くいても、あまり、まともでない環境にいた日本人には、そこまで、見えてこない。

    5. 観光旅行に出かけたぐらいでは、日本人の不作法は、かえって、拍手して迎えられるから、陰で不快さを囁かれていても、「これでよいのだ」という、おかしな自信がついてしまう。
      いわば、海の水が、いかに多くとも、また、波の形が、どれほど、千変万化であっても、浜に打ち上げられる物は、決まっており、それらは、生きた魚でないのに似ている。情報洪水の持つクセと申すべきか。

総論
[エージェントマンに作法は要るか] [作法とは] [作法の目的の分解] [作法は自分のためならず]
[「われわれ」の伸縮] [「より外なるわれわれ」のために] [互恵主義] [作法は森羅万象のためのもの]
[品物を大切にせよ] [与えられた文明には心が乗りにくい] [ゴツイ人物のやり方]
[自分自身がどうしてよいか分らないとき] [どうしようか迷っている相手に対しては]
[作法的なつもりで無作法を行なう者をどうするか] [改まり方・くずし方] [作法とサービス]
[作法と生産性] [心と型] [動機論か結果論か] [媚と反媚] [作法と自然さ] [作法の流儀]
[統一型作法と並列型作法] [欧米との流儀の融和] [アメリカ作法を見誤るな] [一般と特殊]
[3種類の動作] [作法と体型] [作法と風習] [作法と大衆] [作法と女性] [異なるセックス意識]
[作法とヤング] [雑音を嫌う] [あとしまつの技術] [縮小化のわきまえ]
[そこまでやるのか。そこまでやるのである] [作法のために頭が痛くなれ] [教授法での注意]
[説明するな] [作法研修先での注意] [この本での対象作法の限定] [この本の編序] [用語の約束]
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