第4節 拝借
【型1】イスや灰皿は、ちょっと挨拶して、拝借せよ
こちらが、仲間で、ラウンジ、食堂、喫茶店などに入っていたものとしよう。で、仲間で座るに、イスが足りなかったものとしよう。また、座っていると、灰皿がないか、不足しているかで、喫煙に支障を来たしたものとしよう。
- このとき、イスや灰皿を、他のテーブルから取り寄せるためには、まず、そこのウェーターを呼び、ウェーターが、ボヤボヤしているならば、そのウェーターのところに出かけていって、持って来てもらうようにされよ。
- が、ウェーターがいないときは、いくばく、裏方をのぞき込んで、ウェーターを探してみられよ。日本のみならず、欧米でも、レストランに、ウェーターの1人もいないことが、まま、ある。
- が、それにしても、裏方に深入りしすぎると思ったならば、こちらの席から10m以内で、客のいないテーブルまで行って、イスとか灰皿とかを持って来られてよい。そのかわり、ウェーターがあらわれたとき、ウェーターに、そのことを告げられよ。
- 10m以内に、空いたテーブルがないが、1テーブルに客が座っていて、まだ、イスだけ、空いていたものとしよう。このとき、そこに出かけて行き、必ず、座っている客に、了解を求められよ。黙って持って来てしまうのは、泥棒するのと同じと考えられよ。
- 灰皿については、たとえ、その客が、喫煙してなくとも、けっして、貰って来てはならない。
- 客として、持って来たイスは、こちらが発つとき、もとのところに返しに行かれよ。日本人は、これをやらないので嫌われる。
【説明】
- ある日、わたくしは、喫茶店に座っていた。そのテーブルは、なお、3席があいていた。テーブルの上には、灰皿が置かれていたが、わたくしは、喫煙していなかった。
わたくしのテーブルの隣のテーブルはあいていて、そこには、イスが4つあり、どういうものか、灰皿が置いてなかった。
そこに男子4名と女子1名の客が入って来た。で、かれらは座ろうとしたが、イスが1つ足りない。と、その中の男子1名は、わたくしのテーブルから、あいさつ無しに、イスを、持っていった。
で、かれらは、大声で、話を始めた。で、その中の1名が、タバコに火をつけたが、灰皿のないことに気づいた。ぐるっと見わたしたのち、わたくしのところの灰皿が使われていないことを見るや、わたくしのテーブルに来て、だまって、灰皿を持っていった。
わたくしが、コーヒーを飲みながら、聞こえてきてしまう、かれらの会話を聞いていると、かれら5名は、中学校の先生であることがわかった。
わたくしは、コーヒーを飲み終わり、立ち際に、かれらのところに行った。で、申した。「失礼ですが、みなさまは、教職のかたがたと存じます」かれらは、「いかにも、そうだが。で、きみは、いったい、何を売り込みたいのかね」という顔付きをした。で、わたくしは言った。「他の客のところからイスや灰皿をお持ちになるときは、ひとことだけ、声をかけてからになさってください。そして、そのことを、あなたがたの生徒さんがたにも、そう、お教えください。日本を、これ以上、昆虫のような社会には、したくありませんので」。
かれらは、しばらく、顔を見あわせていたが、その中の1名が言った。「いや、失礼しました。が、わたくしは、生物の教師で、日常、とくに、昆虫の研究をやっているんです。が、昆虫社会というものは、同族同士、礼儀正しいものです。すると、人間の社会は、昆虫以下ということか。おい、社会科。なんとか言えよ。お前が、イスと灰皿を、この方のところから持ってきたんじゃないか」で、その社会科氏が、苦笑いをして、頭を下げた。「いや、まったく、どうも」
- が、いつわらざるところ、これが、現代日本の中学校での先生の作法のレベルである。
そこを卒業した生徒は、多く、高校に行く。と、そこでは、人間関係について、権利と義務のことを学ぶのみである。で、大学にいったものとする。そこに、作法教育は、絶無といってよい。では、家庭教育での作法は、どうか。そこには、テレビの画面という尺度がある。そのものは、しばしば、異常なものである。
【型2】箸に胡椒のこと
- ラーメン店などで、箸立てに立ててある割箸とか、共用に置いてある胡椒とかを取るとき、それらが、他の客のそばにあるならば、その客に、ちょっと、会釈してから、取られよ。
- こちらが、会釈したのに、先方が知らん顔をしていたならば、あと、2度と、会釈してやる必要はない。
- が、1度は、会釈を与えられよ。
【説明】
欧米であると、よほどの、ひどい場所に行かない以上、共用のスパイスなどを、人のそばから持っていくのに、会釈しないで、持っていく者はいない。この点、現代日本は、一般のベースが、すさみすぎている。
第7章 飲食・喫煙