第5章 立居振舞 ◆第9節 表情など
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第9節 表情など

【型1】ヨコ目はいけない
【型2】のぞき見、盗み見
【型3】4つの顔
【型4】猿に似るな
【型5】明るい真顔(まがお)
【型6】慎み方はむずかしい
【参考】叱られたあとの顔をするな
【型7】怒った顔もできること
【型8】にこにことにやにや
【型9】吹き出し方
【型10】舌
【型11】会釈を与えられよ
【型12】会釈を返されよ
【型13】ホテル・レストランマンに会釈されよ
【型14】同一の客に2遍は会釈せよ
【型15】肩すくめ
【型16】びんぼうゆすり
【型17】腰ふり
【型18】仕草を制撫されよ
【型19】人前で自分の首から上をさわるな
【通解】失礼の順序
【型20】
【型21】あくび
【型22】時計見
【型23】大声
【型24】口おさえ
【型25】鼻かみ
【型26】大笑い
【型27】冷笑・失笑


【型1】ヨコ目はいけない
  1. ヨコ目を使われるな。
    と申して、古代エジプトのミイラでもあるまいし、ピタッと、真正面だけ、見ているわけにもいくまい。

  2. 左30度、右30度、合計60度、上15度、下45度 、合計60度といった範囲で、目玉を動かしているならば、これは、ヨコ目といわれるものであるまい。

  3. ところが、右30度、または、左30度を超えて、チラッと横に目を動かす方がある。
    心もろとも、このクセを取り去られないと、いけない。
【型2】のぞき見、盗み見
  1. 現代日本人が、海外で嫌われている理由の1つに、「のぞき見、ぬすみ見」 が挙げられている。

  2. 電車などの中で、隣の人の読んでいる新聞、雑誌、書類などを、ぬすみ見されるな。

  3. ひとの事務所や家に行って、珍しいものを見付け、もっと、よく見たいときは、「こちらを拝見して、およろしうございますか」 と聞き、相手の了解を得てからにされよ。

  4. 先方の机上を眺めまわしたり、書きかけ、読みかけの文章をのぞきこんだり、いわんや、先方の書架に並んでいる書物を眺めていったり、いわんや、断わりなく、その1冊を、引っ張り出したりされるな。
【型3】4つの顔
  1. つぎの4つの顔のみを持とうと努力されよ。
    1. 明るい真顔
    2. 心から聞いてあげる顔
    3. ニコニコ顔
    4. 大笑いの顔

  2. この4つの顔を、いつも、鏡を見て、練習されよ。

  3. この4つの顔を、はっきりと区別し、中間的な表情を持たれるな。
【型4】猿に似るな

東洋人は、こころもち、まゆげと目のあいだを開き、すずしい目付きをしていること。
西洋人の真似をして、まゆげと目のあいだをせまくすると、西洋人に似ず、猿に似る。

【型5】明るい真顔(まがお)
  1. 相手に対し対立的な顔つきをしていることがないように注意されよ。
    たとえば、建物の立派なホテルに行ってみても、フロントの人たちが、威儀を正しているとして客を迎え入れる顔つきをしていないことが多い。

  2. 自分では、「明るい真顔」 になっているつもりで鏡を見ると、「おこりがお」 になっていることが多い。

  3. なぜ、こうなのかというと、いつも、フロントに来る客が横暴であるか、けんか腰であるかするから、それを、相手にしているうちに、自分の心も、すさむということ。

  4. いまひとつは、自分が、忙しく、細かいことを、間違えられないという緊張の間に、心の平衡を失っているということ。
【型6】慎み方はむずかしい

相手に対し、慎んでいるときも、明るい真顔とされよ。

【説明】
  1. 相手に対して、慎んだとき、誰でも、まじめな顔付きとなるのは、自然である。

  2. しかし、慎みのあまり、固い顔付きとなってはいけない。

  3. ある、はなはだ、偉い方が、わたくしの前にあらわれられた。
    わたくしは、慎んでまじめな顔をしていた。
    それに、ひきかえ、わたくしの友人は、その方の前で、明るい顔をし、ときに、スマイルすら浮かべていた。
    と、その偉い方は、話しかけられるのに、わたくしの友人のほうにされ、わたくしには、されなかった。わたくしは、さみしかった。

  4. やがて、何年かして、わたくしより、はるかに若い方が、わたくしの前に来られたとき、つつしみのあまり、すごく、まじめな顔付きをしておられた。
    わたくしは、その方に、とりつく隙もない気持ちで、さみしかった。
    で、「慎みのあまり、固い顔付きをする」 のは、相手の心を中心として考えたとき、よくないと知るようになった。

  5. 欧米人の場合、こちらが、慎んで、固い顔付きをしていると、彼らは、こちらが、何か怒っているととってしまうことがある。
    わたくしも、何回か、そういう誤解を受けてきた。
【参考】叱られたあとの顔をするな
  1. ある日、わたくしは、あるホテルの裏方を訪問していた。
    そのとき、ドアがあいて、集会室から、おおぜいの、そのホテルの従業員が出てきた。
    そのときは、気づかなかったが、あとで、そのホテルの、パブリック・スぺースに出てみると、どの従業員もが、怒ったような緊張した顔付きをしているのに気づいた。

  2. で、わたくしは、また、裏方に戻って、1人の中堅幹部に聞いてみた。
    「いったい、なにがあったのですか。」
    すると、答は、
    「なあに、みんな、集められて、社長に、いっぱつ、やられただけですよ。
    ときどき、うちの社長は、やるんで……」

  3. わたくしは、思った。「こんな会社は、長くないな」

  4. やっぱり、それから、5〜7年で、その会社は、人手に渡った。

  5. わたくしは思う。
    ときどき、みんなを集めて、いっぱつ、やる社長は、よい。
    ただ、観光産業は、ふつうの産業と異なる。
    社長に怒られたからと言って、いかにも、怒られましたという顔付きを、客の前でするような未熟な心の社員が揃っているホテルでは、観光産業は、うまく行かない。
【型7】怒った顔もできること
  1. 怒ったとき、ほんとうに、相手を、ふるえあがらせ得る、こわい顔を、練習しておられよ。しかし、これを、実用するのは、3年に1度とされよ。
    幹部たるの修業。

  2. 鈍感な相手に対しても、こわい顔を30秒を超えて用いると、効果がない。
【型8】にこにことにやにや

自分では、にこにこしているつもりで、鏡を見ると、にやにやになっていることの多いもの。
にやにやを取り去られよ。

【型9】吹き出し方
  1. 吹き出してならない状況下で、吹き出しそうになったならば、急ぎ、首を、前にぐっと曲げ、息を、ホッと吐かれよ。
    だいたい、吹き出さずにすむ。
    それから、ニコニコとして、頭を上げられよ。
    礼がこもり、あたたかい感じとなる。

  2. この頭を上げるとき、まじめな顔付きをしていると、慎んでいるに、かかわらず、軽べつの仕草をしたように、受けとられることがある。

  3. これらは、基本的な作法の1つである。
【型10】舌
  1. 舌を出されるな。

  2. 人前で、自分の上くちびるを、なめる者は、「おとなしそうに見えても、好色漢と思え」 ということばがある。
【型11】会釈を与えられよ

  目をあわせた相手には、2遍までは、会釈を与えてみられよ。

  1. まともな心を持った相手でも、こちらの会釈に、気づかないことがある。

  2. ことに相手が、何かに、逆上しているとき。
【型12】会釈を返されよ

知っている人ならば、なおさら、知らない人からでも、会釈されたとき、こちらも会釈を返されよ。

【説明】
  1. は、犬と親しくするため、まず、全身をもって、犬に、じゃれ付く。

  2. は、面倒であると思っても、犬に対し、敵意を持っていないことを表明するため、やはり、じゃれて、みせなければならない。

  3. 犬は、犬なりに、それぞれ、苦労している。

  4. ところが、人にして、相手の会釈を無視する者がいる。

  5. この原因には、つぎの3種類のうちの、少なくとも、1つがあろう。
    1. すさみすぎた社会に育ち、相手が笑顔で近付くや、まず、「その手には乗らぬぞ」 という顔をすることしか知らない。
      あたかも、人がのら描に食べ物を与えようと近付くや、のら描が、まず、フーッと怒ってみせ、それから、食べ物だけとって、逃げるのに似ている。
      「のら猫タイプ」

    2. 嫌いなヤツから会釈を投げかけられたから、「お前とは組はしない」 という、端的な形として、これを無視してみせる。
      で、これをなじられれば、気が付かなかったのだというフリをする。
      「小動物タイプ」

    3. まわりの会釈を無視しても、チヤホヤしてもらえるバカ様として、育ったため、人間に最低限必要な程度の対人感覚が発育不全に終わっている。
      「バカ様タイプ」

  6. あまりにも親しいゆえに、会釈されても、会釈を返さないという友人関係は、子供流儀でありすぎる。
    「親子、夫婦のあいだにも礼儀あり」 と同じである。
【型13】ホテル・レストランマンに会釈されよ
  1. 欧米では、店の者に対して、客から、挨拶する。
    「Good day!」 「Thank you so much」
    東洋では、ほぼ、逆である。
    窮極するところ、人類は、客と店の者が、相互に、挨拶すべきであろう。

  2. 少なくとも、客として、店の者から会釈されて、会釈を返さないということは、あり得ないこと。
【説明】

取引関係として、考えてみよう。
客はカネを払ってやっている。
が、店の者は、物品をくれ、サービスをくれてやっているのである。
相互関係であり、対等である。
貴族、武士階級と町人、奴隷階級との関係ではあるまい。

【型14】同一の客に2遍は会釈せよ
  1. 同一の客に対して、2遍は会釈されよ。

  2. 2遍、会釈を与えてみて、なお、ふんずり返っている客は、人間として、不完全すぎるのであるから、心なく、物的にだけ、販売されればよい。

  3. もし、あなたが 「心の不全者をも保護しよう」 という親の愛を持たれるときは、会釈をやめにしても、丁寧にだけは、扱ってやられよ。
【型15】肩すくめ

ちょっと肩をすくめることは、卑しいとされている。
現代日本では、これが、若い女性に多い。

【型16】びんぼうゆすり
  1. びんぼうゆすりを、されるな。

  2. びんぼうゆすりではないが、足のかかとから先を、クリックリッと動かしておられるのも、よくない。
【説明】

びんぼうゆすりなどを行われる方があると、部屋の空気が、いら立つのである。

【型17】腰ふり

立って、動作し始める直前に、腰をブルッと振る方がある。
まわりに、はなはだ、不潔感を与えるので、これを、されないように。

【型18】仕草を制撫されよ
  1. 喜んだとき、身体をドタバタさせる方がある。

  2. テレたとき、身体をぐにゃぐにゃされる方がある。

  3. こういうことは、犬か、人間ではガキ大学生までのすること。
【型19】人前で自分の首から上をさわるな
  1. 寝間着を着ているときと、洗面所のなかにいるときと、ずり落ちた眼鏡を押し上げるときを除き、みずからのあごの上を、さわるためには、必ず、ハンカチーフを用いられよ。

  2. 頭髪をかきあげるときは、手を使わず、櫛を使い、それが、人前であれば、遠慮がちにされよ。
    そのため、いつも、櫛を持っておられよ。

  3. 櫛を持っておられないとき、自分のハンカチーフを使われよ。

  4. 素手で、自分の耳をさわることに注意されよ。特殊な意味を持つ。
【通解】失礼の順序
  1. 欧米で、会談中、失礼の順位は、いねむり、あくび、時計見、大声、げっぷ、おならの順と知られよ。
    東洋では、ほぼ、この逆順である。

  2. 日本と欧米との失礼の順序の折中品を作ってみよう。
    (1) げっぷ
    (2) 大 声
    (3) おなら
    (4) いねむり
    (5) あくび
    (6) 時計見
【型20】
  1. ねむくて、しかたがないとき、まず 「かかとをうしろに腰起こし……」 * をされよ。

  2. それで、足りないとき、自分の上あごを、舌の先で、くすぐられよ。

  3. それで、足りないとき、足のおや指を、靴の中で、動かされよ。

  4. それで、足りないとき、尻の穴を、つぼめたり、ひらいたりされよ。

  5. それで、足りないとき、黙礼して、室外に出られよ。
    いねむりするより、非礼でない。
【型21】あくび
  1. 人前で、あくびが出そうになったならば、こころもち、下を向き、上唇の下側を舌の先で、左右に、なめまわされよ。だいたい、あくびが止まる。

  2. それで、止まらないとき、ハンカチーフを出し、下を向いて、両手で、鼻以下にあて、そっと、あくびをされよ。
    が、このようにしても、相手にわかってしまったとき、「失礼申し上げました」 と一言添えられること。
【型22】時計見
  1. 壁時計、腕時計をこめ、相手の前で、感づかれるような時計の見かたをしないのが、作法である。
    そこで、客人を迎える側は、なに気なく、客から見えやすい位置に、時計を置くべきもの。
    しばしば、1室内に、時計2個を要する。

  2. また、その準備をしていないときは、客人が、自分の腕時計を見やすいように、ときどき、こちらの視線を、思い切って、そらせるか、立ちあがって、うしろを向くか、短時間室外に出るかしてあげるべきもの。

  3. こちらが、客となっており、相手とのあいだに、机がなかったりして、相手が、こちらの目を見つめたまま、話をやめないとき、こちらが、腕時計を見るコツは、ハンカチーフを出し、腕時計のバンドと皮膚のあいだに、はさんでゆき、皮膚を保護している風情で、時計を見ることである。
    相手に感づかれても、いやみとならない。
【型23】大声
  1. 欧米人のほうが、日本人より、地声は、一般に大きいのであるが、大声の出てしまうことにつき、絶えず、注意している。
    人は、よろこびにせよ、興奮したとき、大声となる。
    大声を出すと、なにかを誘発する。

  2. 小声のみで、すべてを行なっていると、小声で、声が、とおるようになる。
【型24】口おさえ
  1. 咳、くしゃみ、げっぷ、しゃっくり、むせ上げなどをするため、両手で、ハンカチーフを持ち、口をおおうが、そのとき、実は、片手に、全責任を執らせ、その手のひらでぐっと、口を押さえられよ。
    咳の音を殺すため。つまり、残りの手は添えているだけである。
    図:口おさえ1
  2. このとき、眉間顔面*を3/4(約68度 )に下げられよ。
図:18b

【説明】
  1. 日本で、大人の咳の仕方を見るとき、ある人は、ハンカチーフを両手に持ち、口を、しっかりと掩い、頭を深く下げて、行なう。
    ある人は、下を向くが、片手で、口を、ちょっと、押さえて行なう。
    ある人は、頭を、少しだけ下げ、口を押さえることなく、行なう。
    ある人は、ハンカチーフを使うが、首を、横下に曲げて、行なう。
    ある人は、ふんずり返ったまま、口をあいて、平気でやらかす。
    この、それぞれのやり方が、横割りでの産業別、縦割りでの階級別をあらわすようになっているフシがある。

  2. 実のところ、わたくしも、昔は、そう思っていた。

  3. が、欧米、ことに、ヨーロッパに、繰り返して行くうちにわかってきた。
    ヨーロッパでは、王さまであろうと、大統領であろうと、富ごうであろうと、靴みがきであろうと、誰でも、咳をするときには、ほぼ、同じ形をする。その形は、ハンカチーフを両手に持ち、……である。
    そうして、思う。咳の仕方が、職業別、身分別に違うのは、社会体質の後進性からくると。
【型25】鼻かみ
  1. 鼻をかむとき、静かに、かまれよ。
    大きな音を立ててよいのは、屋外のときと、屋内において、便所、洗面所の中だけである。

  2. 鼻をかむとき、眉間顔面を水平にされよ。

  3. 職場で鼻をかむときは、中座して、外で行なわなければならない。
【型26】大笑い

欧米で、女子とすれ違ったあとで、仲間同士、けっして、大笑いをされるな。男女とも。

【説明】

欧米の女性は、日本の女性よりも過敏で、かつ、自己中心的である。
で、すれ違いのあとで、自分の耳に笑い声が聞こえると、他のことであっても、自分が笑われたと思い込む。
日本人は、この 「大笑い」 で、評判がわるい。

【型27】冷笑・失笑

相手に、けんかを売ろうと思うとき以外、「冷笑」、「失笑」 をされないように。


第5章 立居振舞
[まい日の練習] [固くなるな] [カタギ身振りを取り去られよ] [ヘッコラされるな]
[身体つきのよい方よ] [個性とは] [全体のバランスを] [強さをも] [表情など]
[姿勢] [しゃがみ] [起立と着席] [歩行] [段などの昇降] [持ち運び] [振り返りなど]
[ドア作法] [うしろ向き] [手信号] [すれ違い] [人前横切り] [お辞儀] [握手]
[呼ばれての対応] [物品授受] [目上との同行] [紹介] [失敗対策]
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