第6章 和式作法 ◆第2節 座 礼
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第2節 座 礼

【通解】
【型1】下座・和・最敬礼
【型2】下座・和・普通礼
【型3】下座・和・浅礼
【参考】神前での礼(2拝2拍手)


【通解】

座礼の基本は、屈体である。
屈体とは、正座の姿勢から、上体を前傾させてゆくことである。
屈体するときは、背すじをまっすぐにのばす。
また、頭は、まっすぐに上体にのせ、上体の動きに合わせて移動させる。
頭だけ前に落とし、衿と衿足のあいだにすき間をつくることは、見苦しい。
また、顎を上げすぎると、胸元にすきができ、かたちもくずれる。

で、座礼には、9品礼といって、9種類の礼があるが、このうちの7種類が、この屈体に伴う手の位置の変化から生ずるかたちである。
この7種類とは、指建礼(しけんれい)、爪甲礼(そうこうれい)、折手礼(せっしゅれい)、拓手礼(たくしゅれい)、双手礼(そうしゅれい)、合手礼(がっしゅれい)、合掌礼である。
けれども、これらの礼は、日常生活では、あまり使わない。

で、ここでは、座礼を、下座・和・最敬礼下座・和・普通礼下座・和・浅礼の3種類と決め、その3種類について説明する。

【型1】下座・和・最敬礼
  1. まず、正座の姿勢から、上体を屈体させてゆく。
    このとき、背すじは、まっすぐにのばしたまま、前傾させてゆく。
    頭は、まっすぐに上体にのせたまま、上体の動きに合わせて前に移動する。
    頭だけ低く落としたり、また、顎を上げすぎたりしないように注意する。
    178

  2. 次に、そのまま屈体してゆくと、ももの上に置いた両手が、前に押されるように感ずる。
    このとき、手を上体の動きに合わせて、膝の前にすべらせてゆく。
    すべらせてゆく手は、右手を、左手よりもわずかに先行させる。
    179a

  3. 両手は、両膝の前方 7cm くらいのところにつく。
    この位置は、また、上体を屈体しきったときに、自分の鼻が、両手の人差し指の間に、ちょうど、はまり込む位置とする。
    179b

  4. 手の形は、指をそろえて、両手の人差し指をつける。
    そして、両手が正3角形の2辺をかたちつくるようにする。
    このとき、両掌を床にぺたりとつけてしまうのでなく、手の甲にまるみを持たせるようにする。
    179c

  5. 屈体しきったとき、胸は自然と両ももにつくようになる。
    頭は、眉間顔面*が床と水平になるように保ち、また、床から 5cm くらい、離す。
    180a

  6. 屈体しきったとき、腕は、掌から肘までが床につくようにする。
    また、このとき、両脇を締めて両肘が横に張らないようにする。
    そして、両腕の前腕の内側を、両膝の外側につける。
    180b

  7. 下座・和・最敬礼は、最もかしこまった座礼である。
    下座・和・最敬礼は、全体を10秒で行なう。
    まず、最初の 3秒で上体を前に屈体する。
    次の3秒間は、最敬礼の姿勢で静止する。
    そして、最後の4秒で、屈体した上体をおこし、正座の姿勢にもどる。

  8. 呼吸は、吸う息でからだを屈体してゆき、屈体し終わる直前で息を吐きはじめる。
    息を吐いてしまったら、そのまま、2瞬間(まばたきを2回する時間)息を止め、こんどは、上体をおこしながら、息を吸う。
    そして、上体をおこし終わる直前で、再び息を吐きはじめる。

  9. 上体をおこしてゆくとき、手は、上体の動きにつれて、自然にももの上をすべらせてゆく。
    このとき、左手がわずかに先行するようにする。

  10. 礼の場合、この上体をおこしてゆき もとの姿勢にもどるときが、とくに大事である。
    心をこめて、余韻が残るように行なう。

  11. もとの正座にもどったとき、礼をした相手の目や顔を凝視することは、避ける。
    視線は、下図の四角形の中を漠然と見るようにする。
    181a

  12. 下座・和・最敬礼は、正座の膝の開きぐあいの違いを除いて、男性、女性とも、同じやり方、同じかたちで行なう。
【型2】下座・和・普通礼
  1. 下座・和・普通礼は、下座・和・最敬礼ほどつつしまずに行なう座礼である。
    日常生活で、やや、かしこまなければならない場合に使う。
    下座・和・普通礼は、最敬礼ほど、上体を深く屈体せず、眉間顔面が床から 30cm くらい離れた位置にきたとき、静止する。
    181b

  2. 屈体のしかた、手のすべらせ方、手を置く位置、手の形は、下座・和・最敬礼と同様である。眉間顔面は、床と平行に保つ。

  3. 腕は、やはり、脇を締めて、肘を横に張らないようにする。
    掌は、床につくが、下座・和・最敬礼ほど深く屈体しないので、肘は床から少し離れることになる。

  4. 下座・和・普通礼をしているときの、視線は、両手人差し指の指先に置く。

  5. 下座・和・普通礼は、3息で行なうとよい。
    これは、吸う息で上体を屈体してゆき、吐く息で静止している。
    そして、再び吸う息で上体をおこしてゆくというものである。
    時間は、およそ、2秒半で屈体し、3秒間静止。
    そして4秒で上体をおこしきるというようになる。

  6. 下座・和・普通礼は、男性、女性ともに同じやり方で行なう。
【型3】下座・和・浅礼
  1. 下座・和・浅礼は、日常生活でも使う機会が多い。
    部屋に入るとき、物品をすすめるとき、その他、相手に、あまり大げさにならない程度に敬意を伝えるときに、この下座・和・浅礼をする。
    下座・和・浅礼は、男性と女性で、手の位置が異なる。
    で、まず、女性の場合について説明する。

  2. まず、正座から上体を30度屈体する。
    背すじは、まっすぐにのばす。
    頭は、上体にまっすぐにのせたまま、上体とともに移動させる。

  3. 手は、屈体するにしたがって、膝の前に自然にすべらせてゆく。
    そして、女性の場合、膝頭のところで両手をそろえ、下図のように床につく。
    182

  4. 視線を置く位置は、自分の膝頭の位置から測って、自分が座ったときの座高の高さの2倍の長さだけ前方の床の上に置く。

  5. 下座・和・浅礼は、全体を4秒で行なう。
    まず1秒で、30度屈体し、次の1秒間は、屈体したまま静止する。
    そして、最後の2秒で上体をもとにもどし、正座の姿勢をとる。

  6. 呼吸は、屈体しながら息を吐き、上体をおこしながら息を吸うとよい。
    183a

  7. 男性の場合は、屈体したときの手を置く位置が女性と異なる。
    男性は、両手を離したまま、両膝の前に、相互に平行となるようにつく。
    そのほかの点は、女性と同様である。
183b
【説明】

次に、従来、作法でいう座礼の代表的なものについて説明する。
  1. 指建礼(しけんれい)
    手をももの両脇におろし、指先が、畳に触れる位置まで屈体する。

  2. 折手礼(せっしゅれい)
    指建礼から、さらに、深く屈し、膝の両側に手を置き、指先をうしろに向けて、畳につく。
    男子は、骨格の関係から、指先を前に向けたほうが、自然である。

  3. 拓手礼(たくしゅれい)
    身体をさらに屈する。
    手の指先を、前に向ける。
    両手の方向は、肘から一直線に、身体中央に向いた線上にある。

  4. 双手礼(そうしゅれい)
    身体をさらに屈する。
    両手を、前に出す。

  5. 合手礼(ごうしゅれい)
    身体をさらに屈する。
    胸部がももにつき、腕下が畳につくまで、身体を下げる。
    このとき、手の指が、広がらないようにする。
    両手の人さし指の間に、鼻がはいる。
184
【参考】神前での礼(2拝2拍手)

神社、結婚式における神前での拝み方は、神道でも、元来、色々なやり方があった。
これが、昭和10年代に入って統一され、標準が示されて、今日に到っている。
この標準型を一口に言って、2拝2拍手という。

 2拝2拍手のやり方
  1. まず、2回、最敬礼を行ない、そのあと拍手を2回する。
    それから、もう1度最敬礼を行なう。
    これがひととおり終わったあとで、また、2回最敬礼をして、2回拍手し、最後に、1回、最敬礼をする。

  2. これらの動作をたてつづけて行なうと、その間で、3回続けて礼をすることがおこる。
    そこで、そのところは、少し間をおいてやるようにする。

  3. ここで行なう礼は、全て最敬礼であり、この作法心得の言う、立・正対・和・最敬礼*である。
    で、ペコペコと早くやらず、ゆったりと行なう。

  4. 拍手は、腕をのばして行なう。
    肱を曲げない。掌(てのひら)は、ぴたりと打ち合わせる。
    掌を少しずらすと、音はよいが、これは、人を呼ぶときの打ち合わせ方であり、邪道である。

  5. 手の指は、指のあいだをあけずに、ぴたりと閉じる。
    しかし、親指だけは、上に立てても、ねかせて、ほかの指とくっつけても、どちらでもよい。
    指先は、まっすぐのばす。

  6. 拍手は、目の高さで行ない、手を打ち合わせた真中が、目の正面にくるように行なう。
    手の甲に、ふくらみを持たせるかどうかは、随意である。

  7. いずれにしても、2拝2拍手は、神前で拝むときの作法であり、形の問題よりも、心の問題のほうが重要である。

第6章 和式作法
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