第14節 本膳料理の体系
【通解】
- 本膳料理の基礎は、一汁三菜にある。
「菜(さい)」は「な」のことであり、副食物のことを指す。
- 一汁三菜の内容は、飯、汁、香の物、なます、煮物、焼物であり、飯と香の物は、数えない。
- こうして見ると、料理の品数が「4品」ということになる。
で、 「4」 という文字について、これが「死」と同じ音であることから忌み嫌い、一汁三菜という分割した呼び方にしている。
- また、菜の数は、かならず、奇数である。
このことは、日本において、奇数を陽とし、偶数を陰とする思想があり、奇数をめでたいものとすることによる。
一汁三菜、一汁五菜、二汁五菜、三汁七菜など、三汁十五菜まであるが、一汁四菜(偶数の菜)はない。
- 膳は、高足(たかあし)膳を用いる。高さ 40cm。
- 膳の配置は、かならず、まず、本膳 (一番目に出す膳) を膝前に置き、二の膳 (二番目に出す膳) を右側に置き、三の膳 (三番目に出す膳) を左側に置く。
- 昔は、すでに盛りつけた料理を、目八分目の高さにささげて、客前に出していた。
- それぞれの膳には、何をどこに置くかという約束がある。
これを、「膳組み」と呼ぶ。
本膳料理という名称は、室町時代に始まったのであるが、現在、明治・大正時代に完成された膳組みを用いている。
- で、膳組みは、江戸前期のころ、一の膳、二の膳、三の膳として分けていたが、天保のころ、まず、最初に出す膳を、「一」と書かずに「本膳」と書くようになった。
- さて、二番目に出す膳は、本膳より小型である。
で、この膳のとき、「汁」のない場合がある。
これを 「引落(ひきおとし)」 と呼んで、正確には、二番目に出す膳ではあるが、 「二の膳」 と呼ばない。
引落の配置は、二の膳と同じであるが、高さは、二の膳よりも低い。
- つまり、「二の汁」がつく膳が「二の膳」であるということ。
- これに、「焼物」が別の膳でつく。
「焼物膳」という。脇膳の1つ。
- さて、酒について。
酒は、元来、「飯」を食べ終わってから飲むもので、最後に出された。
「吸物」が出されると、「酒」が出ることになっていた。
これを「吸物膳」と呼ぶ。
- で、酒を出す合図が、「吸物」であること。
- が、のちに、酒は飯を食べ終わってからでなく、二の膳に二の汁 (すまし汁) から盃事に移るようになった。
- 会席料理になると、はじめから、箸の上に、盃を載せている。
- で、つゆとして、「飯」につくのは「汁」であり、「酒」につくのは 「吸物」であるということを知っておかれよ。
- 最後、菓子に、濃茶と薄茶、あるいは、そのどちらかが出る。
- 濃茶
抹茶の量を薄茶より多くし、泡立てず、茶筅(ちゃせん)で濃くぼってりと練る。
一碗を数人で飲み回す。
- 薄茶
抹茶に湯をさし、茶筅で泡立てる。濃茶に比べ味わいは、淡白である。
- 抹茶
うすでひいて粉末にした茶。煎茶は、煎じ汁にするが、抹茶は、茶の葉を粉末にしてすべて飲んでしまう。
- 本膳料理でも、食前に、茶の菓子(干菓子、蒸し菓子)がだされ、食後には、一汁三菜であれば、煎茶か抹茶に菓子。
二汁五菜であれば、濃茶に蒸し菓子、さらに、薄茶に干菓子がだされる。
- 干菓子(ひがし)
乾いた菓子をいう。打ち物(らくがん類)、掛物(こんペいとう類)、焼物(煎餅)がある。原則として薄茶のときに出す。
【型1】一汁三菜
本膳 …… なます、汁、平、飯、香の物、焼物、取肴、吸物、酒、菓子、薄茶
【説明】
- 「なます」 …… 鱠または膾と書き、魚を使ったときと、野菜を主に使ったときを区別する。
和(あ)え物か酢物で、小鉢か小丼に盛る。
- 「平」(ひら)…… 煮物のこと。海、山、里のものを5種類ほど、取り合わせ、平たい蓋付きの椀に盛る。
- 「取肴」(とりざかな)…… 口取肴で、はしからとる(小口から取る)肴ということであり、酒の「肴」のことをいう。
肴とは、平安時代から使われている言葉。
さて、「菜」(な)は、副食物のことを指す。
で、酒に添える料理(酒に添える副菜)を「酒のな」と呼び、これが、なまって 「酒な」となり、「肴」となった。
海の物、野の物、山の物など、3〜5品を盛り、一品ごとに、甘いもの、酸味のもの、辛味のものなどにして、重複をさけている。
向こうを高く、手前を低く、大きめの器に盛る。
【参考】
一汁三菜以上を饗応に用いる料理とし、不祝儀のときは、本膳だけが多い。
本膳料理は、総て、高足膳であるが、一汁二菜、一汁一菜では、足のある膳を用いない。
(膳組)
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【型2】一汁五菜
本膳……なます、汁、坪、飯、香の物、焼物
平、猪口、吸物、台引、酒、菓子、薄茶
【説明】
- 坪 …… 二番目の膳につける「平」と区別して、本膳につけられる煮物のことを、「坪」という。
野菜の煮物やしんじょ(魚肉のすりつぶしの蒸物)のあんかけを、蓋付きの深い器、すなわち、坪(坪は、壷とも書き、壷形の器)に盛りつけて出す。
- 猪口(ちょく)…… 器の名称で、イノシシの口に似ているところから、猪口と呼ぶ。
飲酒用の杯や付け醤油の容器をさす場合と、酢の物、和え物など、小さな器に盛る料理をさす場合がある。
- 台引 …… 台引といって口取(蒲鉾、金とん、羊かん、伊達巻きなど) がつく。
現在は、酒が主体になったため、口取の内容も変化し、枝豆、あわびの蒸し焼きなどにかわってきている。
【参考】
一汁五菜から煮物を除いてしまったとき、一汁四菜といわないで一汁共五菜という。
(膳組)
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【型3】二汁五菜
本膳 ……… なます、汁、坪、飯、香の物、焼物
二の膳 …… 平、汁、猪口、
吸物、台引、酒、菓子、濃茶、後菓子、薄茶
【参考】
一汁五菜の献立に、「二の汁」を加えて、「二の膳」にしたものである。現在、最も、多く用いられている膳組である。
(膳組)
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【型4】三汁七菜
本膳………なます、汁、坪、飯、香の物
二の膳……平、汁、猪口
三の膳……椀、汁、刺身
焼物膳、引き物膳
- 「本膳」の「一の汁」は、味噌仕立て。「二の膳」の「二の汁」は、多くが、すまし汁仕立て。
「三の膳」の「三の汁」は潮(うしお)仕立てである。
- 潮仕立ては、すましの一種である。煮だし汁を用いず、魚貝類を、水から入れて煮出し、塩味だけで調味したものである。
もとは、海水で仕立てたといわれ、鯛の潮仕立ては、最高とされている。
- 椀……椀盛りの煮物汁のこと。
- 「焼物膳」は、小鯛の尾頭付きの塩焼きが普通であり、これを、 「与の膳」 と称する者もいる。
四(死)の数を嫌い、「四の膳」とはいわず、「与の膳」といったわけである。
- 「引き物膳」は、口取が盛られた、おみやげ用の膳で、「台引」ともいう。
「五の膳」と称する者もいる。
- 「焼物膳」、「引き物膳」は、箸をつけないで、折り詰めにして持ち帰る。
こん日の結婚披露宴の引出物は、この形を変えたものである。
- 儀式のときは、普通、天婦羅などの揚げ物を出さない。
が、揚げ物を出すときは、焼物のかわりに出される。
(膳組)
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第6章 和式作法