第18節 宴会料理食事作法
- つぎに、宴会料理の作法に、幾とおりか流儀めいたものがある。
はっきりと流儀とまではいいきれないが。
- で、ここで示す宴会料理の作法というのは、比較的標準的であると思うもののよせ集めである。
【型1】参会の心得
- 客は、定刻前15分前までに参着すること。
- 主(あるじ)の予定にない人を、途中から急にさそって連れて行くことをされるな。
- 料理、主(あるじ)の対応について、決して、不平をいわれるな。
- 手洗いに行っておかれよ。食事中、食後すぐの手洗いは、不作法である。
- 履いてきたままのたび、クツ下を履き替えられよ。
- 髪の乱れを直し、衣服を整えておかれよ。
- 指輪、ネックレスをはずされよ。
指輪、ネックレスがあたると、高価な器や、やわらかい器が割れたり、傷がついたりする。
- 手を洗い、口をすすいで、心身を清められよ。
古人は、これを、「心頭(しんとう )をすすぐ」といって大切な所作とした。
- 会席では、強いにおいの香水はさけられよ。
香り、味を生かした料理が台なしになる。
- 宴会料理には、西洋料理と異なり、ナプキンが付かないので、清潔なハンカチーフと懐紙を用意されよ。
- 目上と同席のときは、先に座について待ち受けられよ。
遅れて目上を待たせるのは失礼である。
【型2】手水(ちょうず)の使い方
手を洗うことを手水といい、石の手水鉢を踞蹲(つくばい)という。
- 手水鉢の前にしゃがむ。
- 柄杓(ひしゃく)で水を汲む。
柄杓は、上から手のひらで柄(え)の中央か、やや、柄の端に寄ったところを握る。
- 半杓ずつ、柄を持ちかえながら、左右の手にかける。
- 2杓目で口を2回すすぐ。
口をすすぐときは、左手のひらをしぼめて、その上にあけ、口中で音をだしたり、飲んだりせず、しずかにすすぐ。
- 3杓目で、1回すすぎ、残り水で左の掌(てのひら)を洗う。
- 左手に持ちかえて、柄杓を立てるようにして柄を洗い流す。
- 右手で、合(柄杓の口 )を左に向けて、斜めに柄を引いて置く。
【型3】入退室の心得
- はき物をきちんとそろえられよ。
- 敷居、畳のへり、畳と畳の敷き合わせは、決して、踏まれるな。
- 床の間に、あがられるな。
- 飾ってある物に、ちょっと、さわって見ることをされるな。
- 壁に手をついたり、壁を手でこすって歩いたりされるな。
- 部屋では、早足で歩いたり、走ったりされるな。
- 座っている人と壁の間が狭いとき、そこを通られるな。
日本の壁は、汚れやすく、傷みやすいからである。
- 前があいて歩けるのに、人の背中をまたぐように、人の座のうしろを歩かれるな。
- 座るとき、立つときは、隣に「ちょっと、失礼します」と声をかけ、会釈をされよ。
- 座ぶとんに座るときは、1度、座ぶとんの後に座り、指を座ぶとんにつけるようにして座るか、片膝ずつ座ぶとんにのるようにして座り、両足で座ぶとんの上にのって座らない。
- ハンドバッグなどの持ち物は、膳ならば、小さいものは、膝脇の下座に、大きいものは、座った場所のうしろに置く。
座卓であれば、膝前のテーブルの下に置く。
- 膝を崩す程度は、すべて、「正客」にあわせてされよ。
- 退席、中座するときは、他のかたたちの席の後がわの通路を、ちょっと、うつむきかげんに、静かに歩き、まわりの目ざわりや迷惑を最小限にとどめる。
- 人の座のうしろが狭い部屋で中座するときは、膳をまたがれるな。
そのとき、膳を横(横が、いっぱいのときは、前)にずらされよ。
そのあと、お膳をもとの位置に戻すことを省略して出られよ。
- 食事の終わりには、お茶を飲んで、口の中をきれいにしてから席をたたれよ。
- 退席は目上が立ってからにされよ。
【型4】茶事における入退室
茶事とは正式な茶会のことをいい、一定の作法によって、茶懐石料理、濃茶、薄茶を飲食することをいう。
- 茶事に招かれたとき、広間での席入りは、入口に座り、ふすまをあけて一礼ののち、室内をうかがってから、一膝、躙(にじり)に入り、正客に一礼してから立ち上がり、床前に進む。
- 床の間の前に座し、一礼して掛け物を拝見する。
- 拝見し終わったら、一礼して炉にすすむ。
- 座して両手をつき、釜、次に水指を拝見する。
道具拝見にお辞儀はいらない。
- 道具拝見のあと、あとの人の通るじゃまにならないよう、適当なところに仮座し、末客が拝見を終わったら、正客から順に定座につく。
- 退室のときは、正客から順に、もう1度、掛け物、釜を拝見して出る。
- 入室のときは、床の間と反対側の下座(げざ)の足から踏み入れ、退室のときは、上座(じょうざ)の足から出る。
- 茶室には、躙口(にじりぐち)といって、約1m四方の出入口がある。
このときは、頭から先に出入りする。
【型5】日本座敷の席順
- 床の間がある場合は、そちら側が上座。
- 床前が主席であり、床の間に付(つけ)書院(床脇)があれば、この前を次席とする。
床に遠いほうが下座である。主人は下座につく。
- 床の間も無く、席が直線になっている場合、入口から入って奥のほうが、上座である。
- ” ” 部外の左右、枝部の上位は、入口から入って奥のほうの枝が上座。
- 庭がよく見えるときは、庭を見る側が上座。
- 入口が正面で、窓もない場合は、上座から見て、右手の枝を、より上座とする。
- 中の州席(内側席)は、両端より下座である。
両端のほうが上座を眺めやすいこと、中の州が背中あわせになるためである。
席順は両端の席順と同じである。
【型6】茶事における席順
- 床前の一畳は貴人畳(きじんだたみ)といって座らない。
- 部屋が狭い場合はこの限りではない。
- 狭い場合でも、主(あるじ)と客との挨拶がすむまでは、一畳あけて座る。
- 畳一畳に二人ずつ座る。狭い場合はこの限りではない。
- 出入口など他の客のさまたげとなるところには座らない。
- 茶懐石では、床の間の前が上座、出入口が下座である。
- 茶席では、同じ部屋でも、釜があるところが上座で、正客の位置である。
- 正客の座るところには、タバコ盆が置いてある場合もある。
八畳以上の部屋を広間、四畳半以下を小間(こま)という。
【型7】どこに座わればよいのか
- その会に集まる顔ぶれを考えられよ。
- 社内の場合は、自分より役職が上、あるいは、年齢、入社年度が上である者が上座に座る。
(その優先順位は、役職、年齢、入社年度である)
- 同業者、あるいは、地元の集まりの場合、年齢が上の者、または、その会の役職の者が上座に座る。
- 入口を入ったところで、後続者のために1歩横にどき(平気で突っ立たれて良い)、自分の席を見つけ、場内の人々に会釈しながら、自分の席へ行かれよ。
- 社を代表するような会長、社長は、入口を入って、その場で立ち、自分の席を見つけ、場内の人々に会釈しながら、自分の席にゆっくり行く。
【型8】あとから上座に座るべき者が入ってきた場合
- 座ってしまったが、まだ宴会が始まっていない場合で、かつ、動ける状態のときは、その者に上座をゆずる。
- 会が始まったあとに入ってきた場合は、席を変える必要はない。
【型9】名代で座っていたとき、本者が入ってきた場合
- 名代者は、そっと立ち、その席を本者に譲る。
このとき、座ぶとんを裏がえしたりしない。名代者はそのあと、控室とか、あいている末席とかに移り、もし、控席、あいている末席のないときにも、いったんその部屋を出る。
- このとき、すでに、名代者が食べ始めている飲食物があっても、そのままにしておけばよい。
接待係が、いま来た本者のための食べ物を持って来て、名代者の食べかけを、名代のいるところに持って来てくれる。
【型10】挨拶
- 宴会料理では、膳が使われるときもあり、折敷*が使われるときもある。
膳で出されたとき、手を出して受けとらずに、膳が膝前に置かれたら、そのまま一礼し、そのあとで、自分のよい位置まで引くようにする。
第6章15節【型2】「折敷」を開きます。
- 折敷で出されたときは、両手で受けとるのが作法である。
- 折敷の木目は、客と平行。必ず、横である。
- 折敷でも、茶椀でも、皿でも、給仕者が持って来て、膝をたたみについたならば、もう、こちら側が両手を出し、丁ねいに受ける仕草にはいられよ。
- 膳の持ち方は、両手を1度に出さず、右手を先に出し、次に左手を出す。
昔は、右手で持ち、左手は添えるのみと教えていた。
【型11】食事のときに注意すること
- 食前、食後の礼は、必ず、されよ。
- 姿勢
- 肘をついて食べられるな。
- 肘は脇の下につけるような感じで、横に張らずに動かすようにし、あまり肘を張って、いばって食べない。
- 顔をかたむけて器に近づけたり、首を突き出したり、うつむいて食べられるな。
- ご飯や汁を食べながら、椀のふち越しにじろじろみまわされるな。
- 器に口をつけるようにして料理をかき込む「犬食い」をされるな。
- 背筋をすっと伸ばした自然な姿勢で食べられよ。
- 雑音
- 食べ物をかむ音、飲む音、食器の音をさせない。
- 食器のあたる音は、心して音を立てないようにされること。
静かに、料理の味を楽しむ会席では、不協和音となるし、高価な器をかいたり、傷つけたりするのではないかと、主人を心配させることになる。
- 食器の移動のときに、指先に力を入れて、ソッと置くようにすると、音は比較的、立たないものである。
- 会話
- 食べ物を口に入れたまま話をしない。
- 不潔な話、人の嫌がる話、議論になりやすい政治・宗教の話をしない。
- 高い声で談笑したり、他人の批評をしたり、誹(そし )ったりしない。
- 食事の途中で、やたらに席を離れない。
- シジミのような、小さな貝などは、汁椀の蓋を使い、これに、貝がらを入れられよ。
蓋を椀に戻すとき、貝がらを椀に入れればよい。
- 口の中の小骨、種は、直接、皿に出さないで、左手でそっと口をおおいながら、右手の箸に受け取り出してから、皿の端におかれよ。
- 食べ終わった器の中の骨、皮、種は、きれいにまとめて置かれよ。
- 他の人と一諸に食べ始めて、だいたい、同じくらいに終わるようにされよ。
- 楊子(ようじ)
- 洋食では、人まえで、楊子を使えないが、和食では、つかわれてよい。
ただし、手で掩って使われよ。
- 楊子は、目上のかたがいる席で、そのかたが使っていないときは、使っては失礼になる。
【型12】器の扱い方
- 器を落とされるな。
- 手に持てる器は、しっかり手にかけられよ。
指にポーズをつけたり、離れていたりする遊び指がないようにされよ。
- 持つときは、左手を器の糸底にしっかりあて、右手をそえて安定させる。
- 器の運びは、左手のひらに器をのせ、右手をそえて、食べ物に息がかからぬよう、高か目に移動させる。
- 器を置くときは、右手で器を持ち、そっと下に置く。
先に糸底の前方をつけ、そのあと、手前をつけると、音がでない。
- 小皿に入っている漬物、煮物などの小丼は、左手に持って食べる。
- 大きな食べものは、口のそばに持ってきた皿の上で割って、食べられよ。
くいちぎられないように。
ただし、たとえば、モチのように、箸で割っていられないもののときは、平気で、くいちぎられよ。
タケノコなどもその例。
- 器が持てないような大きさの場合には、懐紙か、椀の蓋に受けて食べられよ。
- 大きな器(うどん、そば、丼ものなど)は、食卓に置いたまま、片手を器の端へそえて食べる。
- 盛り込み皿について
- 正客から順に回される大皿を取り箸を使って取り分け、自分の箸は使わない。
- まだ、取り分けていない人に、「お先に」、「失礼いたします」と軽く会釈してから取り分ける。
- 自分の取り分以外のところは、取り箸でさわらない。
あとの人に嫌われる。
- 最後の人は、すっかりあとも残さずに取ると、いかにも量が足りないのを訴える風情になる。
ほんの少しでも残されよ。
- 自分でとった料理は、残さず、食べられよ。
【型13】懐紙
懐紙の用途は広く、日本料理のマナーには、とくに、懐紙が必要である。
懐紙は懐中の小菊紙の略で、小菊は紙の種類をさす。
服装の関係から、ふところに入れやすいように、奉書、段紙を四半分にしたのが、現在、男子が使っている懐紙であり、その小型が婦人用である。
もとは、和歌、連歌、漢詩などをしたためるのに使っていた。
懐紙は、そのまま使うと端をいためるので、懐紙ばさみを用いると便利である。
【型14】懐紙の用途
- 膝掛けに使う。
- 器に口紅のあとがつかないように口唇を押さえる。
- 醤油やつゆのたれそうな場合の受け皿代りに使う。
- 魚などの骨を抜くとき、懐紙で頭を押さえて骨を抜くとよい。
- 料理で指を汚したときや、汚れた楊子やフォークの先を拭うのによい。
- そそうしたときに便利である。
- 食べかけを残すのは良くないので、懐紙に包んで持ち帰る。
- 茶懐石料理では、汚れを器に残さないのが作法であるので、魚の骨などは、懐紙に包んで持ち帰る。
- 本膳料理で、魚の骨などの汚れがひどいときは、皿の隅に寄せ、懐紙をかぶせて置く。
- 食べた骨や殻を、そっと懐紙に包んで蓋物の中に入れて置くと感じがよい。
- 果物の皮やみかん、ぶどうなどの食べたあとのふくろを包んで置くと見た目によい。
- テーブルにこぼしたビールの泡をふく。
- テーブル、膳の汚れをきれいにする。
- 菓子などをのせてすすめる。
- 取り皿の代わりに、使える。
- ぬれたクラスの底おさえによい。
- 濃茶を飲み終え、茶碗に口をつけたところを軽くぬぐう。
- 杯洗した盃の水切りに使う。
使用後は、小さくたたんで、ポケットにしまわれるか、下座の自分の膝脇に置かれ、帰りに持って帰られよ。
【型15】懐紙の折り方
- 2つ折りの場合(受け皿として使用)
折り山を手前(わを手前)に置き、箸先の汚れを懐紙の一枚目の上かどを折ってはさみ、きれいに拭う。
流派によって、懐紙の向こう左隅であったり、右隅であったりするが、どちらでもよい。
- 4つ折りの場合(受け皿として使用)
茶懐石では、4つ折りした懐紙の上に、八寸の肴をのせてすすめる。
- 皿代わりに、あるいは、器の上に敷いて食べ物を出す場合
- 祝儀、普段のときは、二枚重ねにし、左隅を下の懐紙より出す。
出す数量は、吉を示す奇数がよい。
- 不祝儀のときは、一枚のみ使用し、祝儀とは逆の右隅を下の懐紙より出す。
出す数量は凶を示す偶数がよい。
- 出す数量は、食べ物の数や大きさによって異なるので、あくまで、吉凶を示す数にこだわらなくてもよい。
【型16】箸
- 箸は、食事中も、食事終了時も、必ず、手前横に置き、けっして、縦に置いたり、斜めに置いたりされるな。
箸は、必ず、2本、そろえて置かれよ。
- 箸先の使用は3cm の程度までとされよ。
- 正餐のとき、杉の利休箸を用いる。
利休箸は、真中が太く、両端が細く削ってあり、長さは、25.5cm である。
これは、はらみ箸からでた形で、五穀豊穣、子孫繁栄を意味する祝い箸である。
不祝儀には、用いない。
- 茶懐石では、箸を水につけ、充分に水気を含ませ、拭き切って出す。
ぬれた清潔感があり、箸先に食べ物がこびりつかなくてよい。
【型17】箸置き
- 箸置きが出された場合、箸置きを手前中央にきっちりと置いて箸先をのせられよ。
箸先が箸置から出るのは、2cm 程度にとどめられるのがよい。
- 宴会料理には、箸置きが出されたりするが、正式の茶懐石膳では、箸置きは使われない。
- 膳や折敷が小型で略式であったり、折敷の形が円形で箸を置く位置が狭い場合には、箸置きは使わないことがある。
- 箸置きのない場合は、箸先を、膳、折敷の左側の縁にのせられよ。
箸先が汚れなくてよい。箸先を縁に長く出すと下品になる。
- 箸を膳の左側に掛けることは、「左膳」といって嫌う人もいる。
その場合は、右膳に掛けられよ。
懐石膳の場合、箸の置き方は、流派によって異なり、膳の右縁だったり、左縁だったりする。
たとえば、食前には、箸を右縁にだし、食事中は、左縁に出して置いたりする。
- 膳や折敷でない食卓の場合に、器の縁や器に渡し掛けて置くと、「渡し箸」といって嫌われるので、小さな受け皿の縁に箸先をかけられよ。
- 箸置きがなければ、懐紙1枚を4つ折りにして、箸をのせられよ。
テーブルが汚れずにすむし、箸が汚れずにすむ。
また、懐紙を使うことで、優雅に感じられる。
【型18】箸袋の取り方
- 箸袋の底は、左側に置かれているものである。
- 箸が箸袋に入って出された場合は、右手で箸の入っている袋の中ほどを持ち、左手を下から添えて膝元に引き寄せ、箸をつまんでいる右手で箸を袋から抜き、膳に置かれよ。
再び右手を戻して袋に添えてから箸袋を処理されよ。
【型19】箸袋の処理の仕方
- 袋をたてにして、膳の左側下に置く。
袋のデザインが良ければ、帰りに記念に持って帰る。
箸袋に使った箸を、食後、再び入れて置くとまだ使っていない箸と間違われるので、注意されること。
- 箸袋から箸を抜いたら、すぐに、箸袋をポケットにしまわれてもよい。
- あるいは、箸袋を2つ折り、もしくは4つ折りにして、右側の器の下か、膳の下にはさまれよ。
そそうのときの懐紙がわりとなる。
- あるいは、千代結びにして、あるいは、そのまま、膳の上に載せ、箸置きがわりとしてよい。
とくに、膳でない食卓のときは、膳の縁代わりで都合がよい。
食べ終われば、使った箸先は、袋の中に入れて置かれよ。
箸袋でだされるようになったのは、明治時代の料亭においてである。
清潔感を出し、袋のデザインによるムード作りのために、使われるようになったのであるが、正式な膳には、箸袋を使わない。
【型20】割箸の割り方
- 箸袋と同じ取り方で、箸を右手で取り上げ、左手を下から添え、膝の上で、左手は下側、右手は箸の上側を持ち、上下に開いて割る。
- 高いところで音を立てて割ったり、箸先をこすり合わせたりしないこと。
- 箸を割ったら、そのまま、料理に箸をつけることはせず、一旦は、箸置に置かれることをされよ。
【型21】箸の使用注意
- 箸で人をさされるな。
- 箸を使うときは、箸の置いてあるところから、直接、料理に箸をつけないで、一旦、料理を身近に持って来てから箸を使われよ。
- 箸を持ったままで、飯、汁のおかわりをされないこと。
- 箸を持ったまま、椀の蓋を取られるな。
- 取り箸のついているときは、それを使い、自分の箸で取らない。
- 箸で、椀の中の実をかきまわしたり、椀の汁の中に、まだ、何かあるかとさぐってみることをされないこと。
「さぐり箸」といって嫌われる。
- 「もぎ箸」といって、箸にくっついたご飯粒を口でもいで食べたりされないこと。
- たれのあるものを、膳から直接、箸でとると、ポタポタとしずくを落とし、「なみだ箸」といって嫌われる。
- どれを食べようかとばかり、箸を、膳の上で、ウロウロさせられるな。
これを、「迷い箸」と呼び、教養をうたがわれる。
- 箸の先で、チュッと吸われるな。しゃぶられるな。
「ねぶり箸」と呼び、いやしまれる。
- 食べようとしてはさんだが、離して箸を引く、「そら箸」をされるな。
- 料理をつきさして口へ運ぶ、「さし箸」をされるな。
- 盛りつけてある料理の下のものをほじくり出して食べることは、「ごじ箸」といって嫌われる。
- 口の中へ箸でおしこむ、「こみ箸」をされるな。
- 箸で、歯のあいだに詰まったものを掃除されるな。「せせり箸」といって嫌われる。
- 箸は口に運ぶもの。膳や器をたたく、「たたき箸」をされるな。
- 飯椀や皿を箸先で移動させる、「寄せ箸」をされるな。
- 箸先で飯を固めてから口に入れる、「固め箸」をされるな。
- よそったご飯のまん中に箸を立てる、「ほとけ箸」をされるな。
- 遠くの器に箸をさしだして食べる、「および箸」をされるな。
- 湯や茶をついだ茶わんの中へ、香の物を入れてかき回す、「回し箸」をされるな。
【型22】箸の正しい持ち方をされよ
正しくない持ち方は、ぎこちなく不自然である。
豆を使って箸による移動を訓練し、正しい持ち方をされよ。
50粒ぐらいの小豆をつかって、A地点からB地点に一粒ずつ、全部移す訓練を何度もして、不器用さを矯正するとよい。
【型23】椀の蓋
- 飯椀は、必ず、左側。汁椀は、必ず、右側である。
- ご飯、汁などの蓋付き料理の蓋は、食べはじめる前に、全部、あける。
食べながら、蓋をひとつひとつあけることはしない。
- 原則として、膳の左側にあるものは、左手で左側に、右にあるものは、右手で右側に置く。
畳をぬらさぬ工夫もされよ。
- 瀬戸茶碗の蓋と汁椀の蓋を重ねて置くことを、けっして、なさるな。
椀の塗りものに傷がつくからである。食べ終われば、最後に全部の蓋をするのであるが、そのときも、蓋は正しく蓋をし、蓋を裏返しにしたまま重ねて置くことはしない。
これもまた、傷が付くからである。
しかしながら、茶懐石では、蓋を裏返しにして置くことをする。
- 茶懐石料理では、飯椀と汁椀の蓋を両手で1度取り上げ、飯椀の蓋を上向きに、汁椀の蓋を下向きに、あるいは、大きいほうを下にして、貝のように合わせ、両手を添えながら、膳の右側に置く。
【型24】蓋のとり方
- 蓋をとるときは、右側の椀の蓋は、左手で椀の脇を添え、右手の親指とひとさし指で蓋の糸底の手前をつまみ、残りの三本指を反対側に添えて、向こう側に蓋をあける。
蓋を椀の縁から離さず、縁にそって「の」の字を書きながら、45度回転させて、椀の横まで移動させ、露を椀に落としてから、指はそのままの状態で、蓋を裏返しにしながら、手元に引き、左親指をあてがい、蓋は右手指で持って、膳の右側の下に置く。
- 椀の蓋が左側にあれば、右手を椀に添え、左手で蓋をとる。
- 椀の蓋は、木の蓋であれば、簡単にとれるが、ベークライト製の蓋であれば、蓋が密着してとれにくい場合がある。
- 右手を椀に添えながら、左手の親指とひとさし指で、椀の上縁を手前と向こうから軽く押さえ、空気を椀に入れるとあく。
- そのとき、右手で糸底をまわせば、さらに、よい。
- 両手で椀を押さえてもあくし、つまようじを蓋と椀の間に、静かにさし込まれてもあく。
- 自信がなければ、給仕係にしてもらうことである。
給仕係は、一旦、椀をさげて蓋をとり、すぐとれるように蓋をずらし加減にして、再び、だすこと。
【型25】椀の持ち方
- 親指以外は、指が、ばらばらにならないようにし、4本の指をそろえて、椀の糸底にあて、親指は軽く椀の縁にかけ、出し過ぎないようにする。
- 正しくは、椀の糸底をひとさし指・中指と薬指・小指とではさみ、親指を椀に添える食べ方が正式である。
【型26】箸構え
- 本膳料理では、食べる際、箸構えが先で、椀を取ることは、あとである。
茶懐石では、これが反対であり、椀が先である。
- 「もろ起こし」といって、飯椀と箸を同時に持つことはしない。
- 箸構えであるが、箸袋を取ったときと同じやり方で、右手で箸を取って、箸の左側を左手で下から受け支えて膝元に引き、右手を箸の端に向かって滑らせ、下にまわし、持ち直して箸構えをする。
- 茶懐石作法では、右手で椀をとり、左手に椀を移して安定させ、次に箸をとり、箸先を左手の指にはさみ、右手を箸端にずらし、箸下にまわして箸を構える。
- 箸先を左手の指に掛けて持ち直すときには、
- 箸を左手の中指と人差し指の間にはさんで右手で持ちかえる仕方
- 左手の中指に軽くのせる仕方
- 左手の小指にのせて持ちかえる仕方
3方法があるが、小指は他の指から離さないほうが、箸構えの際、美しく見える。
とくに女性は、たとえば、お茶を飲むときにカップをつまむ(ティーおよびコーヒー・カップは、ひとさし指を入れて握るものでなく、柄をつまむものである)際にも、小指を離さないほうがよい。
- 茶懐石作法で箸を置くときは、まず、先に箸を置き、そのあと、椀を置くこと。
【型27】食べる順序
- ご飯を先にとる。
汁から先にとることはしない。
近年、汁が暖かいうちに、また、箸とのどを湿す意味で、汁を一口吸ってから、ご飯を食べることをするようであるが、祝儀には、ご飯を先に食べ、不祝儀には、汁から先にする習慣があるから、注意を要する。
- そんなところから、神式では、ご飯から、仏式では、汁から先にとると言われている。
- したがって禅宗の影響を受けた茶懐石では、汁、飯、汁の順にいただく。
- 箸構えをしてから、左手でご飯を持ちにいき、箸を右手に持ち直し(図参照)、箸を持ったまま、左手を追いかけるようにして、椀に右手を添えてから、両手で膝上に引き、椀の糸底を左手に安定させ、箸を持ち直して(図の逆順)、ご飯を口元に運ぶ。
汁だけの吸物膳のときも同じ作法である。
|
箸構え
|
|
親指を箸下にくぐらせて一回転させる
|
|
|
|
人差し指を箸の上をまたがせ、反対側に送る
|
|
|
- ご飯についで汁椀を取るときは、4-図e の形で箸を持ったまま汁椀を取り(箸を持ち添ええて汁を飲み、箸を持ちかえて、汁の菜を食べる。
- ご飯が左側にあるのは、
- ご飯を持つ左手に最短距離である
- ご飯を手にとる回数が多いこと
- いちばん貴いものの位置は左側であることなどの考えによる。
- ご飯は、二口も三口も食べることをせず、一口食べたら汁に移り、立ちのぼる香りをゆっくり味わいながら、一口飲み、また、ご飯を一口食べて、2度目の汁で箸を持ちかえて、はじめて、汁の実を食べるのが正しい作法であり、再び、ご飯を一口食べて、「なます」を食べ、また、ご飯を一口食べて、「坪」というように、ご飯をはさみながら、香の物を除いた本膳の菜をひととおり、全部を口にすることである。
- あとは、箸を持っている手を右膝上に軽くのせ、左手だけで汁を吸っても差しつかえない。
- 茶懐石作法の宴会料理であれば、はじめに、ご飯を一口食べたら椀も箸も置いて、汁椀を両手で持ちあげて、そのまま両手で一口吸ってから膳に置く。
また、ご飯を食べ、2度目の汁のときに、箸を左手指にかけて持ち直して、汁の実を食べる。
けっして、椀を下に置いたまま、汁の実を食べてはいけない。
- 吸いものは、音をたてて吸い切ることをするが、味噌汁は、音を立てて、飲んではならない。
- 本膳から二の膳、三の膳と菜だけの箸をのばすのを「菜渡り」とか、「移り箸」といって嫌われている。
前の菜の香りや味をご飯で消し、次の菜をおいしく食べるためである。
- 菜から菜の間に、かならず、ご飯をはさみさえすれば、そのあとは、何を食べてもよい。
が、ご飯の上に菜をのせて食べてはならない。
- 飯椀を持ったまま、汁を飲まれるな。
- ご飯をほお張らず、押しこまず、かきこんだり、椀の縁に口をつけて食べたりされないこと。
【型28】おかわり
- ご飯は、2膳はおかわりされよ。1膳では、死者の枕飯が1膳なので、縁起が悪いと嫌がられる。
- どうしても、1膳しか食べられないときは、椀の蓋にご飯を少しだし、またあとから入れて、2膳目とされよ。
【型29】おかわりのされ方
- おかわりするときは、ご飯を、一口、椀に残しておくと、おかわりの意思表示をしたことになる。
ご飯がなくなると給仕役が、すぐ、追加を持ち出さなければならないから、一口残して、「けっして、急いでおりません。まだ、ありますから、お急ぎになられなくてもよいのですよ」という表情をして見せる奥ゆかしさが必要である。
- ご飯は、3度おかわりしても構わないが、汁のおかわりは、3杯目をすすめられても辞退されよ。
- 二の膳以下の汁は、おかわりをしないのが作法である。
- おかわりは、1度、箸と椀を置き、口の中のご飯をすっかり食べてから、椀を両手で差し出すこと。
- おかわりしていただいているあいだは、菜を食べたり、汁を飲んだりしないで、静かに、待っていること。
- 通いのものが、飯椀を両手ではさむようにだすので、糸底を持って受け取り、一旦は、膳の上に置いてから食べはじめられよ。
- おかわりしたまま、口に、直接、持ってゆくと、「受け食い」、「受け吸い」といって嫌われる。
【型30】おかわりの仕方
- ご飯は、「盛る」といわないで、「つぐ」という。
- 通いものは、左手の親指を椀の縁に掛けないように、椀の糸底の縁を親指とひとさし指でつまみ、残り三指で椀をささえて、受け取り、そのままの状態で、2度に分けてつがれよ。
- ご飯は通い盆を用いないで受け、汁は通い盆を用いるのが正式である。
- 給仕係は、黒塗りの丸盆で受けられよ。
- 持ち運びの時間に冷めないように、蓋とともに受け、汁をもったら蓋をし、渡す手前でとるのが正式であるが、別の蓋をして持ち出し、先方で取ってすすめてもよい。
【型31】しゃもじの使い方
- 右手の親指をしゃもじの柄の表側に添え、残りの指は、柄の裏側に添え、しゃもじを横からつまむ感じにする。
- つぐときは、しゃもじの柄を向こう側に倒し、下部を手前に向けてすくうようにしてつぐ。
【型32】香の物の食べ方
- 香の物を1膳目から食べると、出されている料理がまずいということを意味する。
2膳目から手をつけられよ。
- 香の物を咬み切ったり、ポリポリと音をさせて食べてはならない。
禅門の食事で、音をだして食べることは、厳禁である。
香の物を食べるときに、音を出すことは、叱責に値する。
- たくあんなどを食べるときは、真中から咬むと音がするし、口を開けたまま咬むと音がするから、端の方から、静かに咬むようにすると、比較的、音を立てないですむ。
【型33】刺身の食べ方
- 刺身は、作り、造り、向付けとも呼ばれている。
大きい猪口(ちょく)は刺身、小さい猪口(小さい猪口のときは千代久、千代口と書いたりする)は、むらさき(醤油)用である。
- 穂じそは、逆にして、指で端を持ち、千代久に指先でしごいて落とす。
- 山葵(わさび)は、醤油に付けず、刺身に付けて食べる。
わさびを刺身に少しのせ、刺身を2つ折りにして風味を包み、醤油を少し付けて食べる。
- つまが付いているが、これは、生ぐささを消すためのもので、刺身と交互に食べたり、刺身にのせて食べたりするとよい。
- しその葉や大根のつまを食べることは、栄養面からもよい。
- しその葉で刺身をくるんで食べられよ。
- 醤油を付けた刺身を膳から直接に口に運ぶと、しずくがたれるので、千代久は、必ず、右手で取り上げて、左手の掌(たなごころ )で持たれよ。
- 食べ終われば、千代久を大きい猪口の中に収めて置くことをされよ。
【型34】魚の食べ方
- 魚の頭は、常に、左側にあるが、不祝儀のときには右側になる。
- 「海背川腹」といって、海の魚、たとえば、刺身などは、背の方を手前にし、川魚は腹を手前にする。
- 頭から尾のほうに向かって骨が付いているので、頭から食べてゆくと身が取れやすいので、目の下から食べ始められよ。
- 焼き魚のときは、醤油に浸したり、はじめから醤油を掛けてしまわないで、むしった身の一部を、ちょっと付けて食べられよ。
- 魚は返して食べないことが原則となっている。
とくに、鯛などの尾頭付きは、お祝いの膳に出されることが多く、「ひっくり返す」ことは、不吉なこととして、忌み嫌われている。
- 昔の殿様は、上身を少し食べただけで、下身を食べることはされなかったが、現代人には、そのような無駄は、経済上、許されない。
上身を食べたら、箸を骨の下に入れて骨を上に浮かせ、エラの下と尾の手前の身を箸ではがし、頭つきの骨を、皿の向こう側にだして下身を食べられよ。
- 魚の骨の間から、下身をほじくり出すことは、「簀(す)の子せせり」といって嫌われているので、されないこと。
- 「かれい」などの骨身の魚を裏返して食べるときは、自分が食べた部分を人に見せないように、魚の背を手前に返す。
このときも、魚の頭は、左側である。
- 食べ終わったら、骨は、2つか3つに折って小さくまとめ、隅に寄せて置く。
- ぶりの照焼などは、骨もないので、肉を食べるときとは逆に、右から、一口ずつ箸で取って食べられよ。
- あゆの塩焼きを食べるときは、頭を左手で抑え、箸で、背びれを取り、尾を折り曲げる。
その際、懐紙を小さく折って、魚の頭にあて、左手で抑えると、指が汚れない。
そして、身を頭の方から尾に向けて、箸で順々に押すことを2〜3度繰り返し、箸で頭の横を抑え、左手で、頭をつかんで骨をすっと抜かれよ。
魚が小さければ、全部、食べてよい。
【型35】どびん蒸しの食べ方
- 蓋を右手で取ったのち、左手で、左の手前に置く。
- ゆず、あるいは、レモンを絞る。その際、左手は、汁が飛ばないように右手をおおう。
- 蓋を受け皿と盃がわりに使い、汁は、どびんの口から蓋に注いでから口に運び、具は蓋に取ってから口に運ぶ。
【型36】茶碗蒸しの食べ方
- 昔は、箸先で器の中の上部をぐるりと円を書いて、はがしたが、最近は、スプーンがよく出されるため、スプーンで内側を一周させる。
- 茶碗蒸しは熱いので、受け皿ごとに手に持って、手前から一口ごとにすくって食べる。
- 器を先にとり、スプーンは、あとから取り、戻すときは、スプーンを先に戻してから、器を戻す。このことは、箸の作法と同じである。
【型37】天ぷら
- 天ぷらの由来
- 天文12年(1543 )、種子島に漂流したポルトガル人たちによって、長崎地方に、南蛮料理がもたらされた。
この南蛮料理の中に、天ぷらの元祖を思わせるものが数々あった。
- こん日に伝わる長崎天ぷらは、南蛮料理のおもかげを残している。
これは、衣に特徴がある。酒、砂糖、卵、小麦粉、塩でつくられ、衣自身にも味がついており、衣と中身との味のバランスを考えた料理である。
- この長崎天ぷらの源が、長崎から上方、江戸という経路をたどり、現代風天ぷらになった。
- 現代風天ぷらの衣は、水と卵、小麦粉で作られ、衣に味を持たせるより、中身の持ち味を生かす料理である。
- 天ぷらの薬味
- おろししようが
- 大根おろし
- もみじおろし(種を抜いた赤唐がらしをさし込んだ大根をおろしたもの)
- レモン
- 七味唐がらし など。
- 天ぷらの食べ方
- 魚類から野菜類に食べすすむのが、おいしい食べ方である。
- 天つゆの中に、薬味を入れ、レモンが添えてあれば絞って天つゆに入れる。
- 天つゆのかわりに塩をかけると関西風になる。
- 天つゆの器を手にして、天ぷらをつけて食べる。
- 天つゆの中にいつまでもつけて置くと、ころもがふやけてまずくなるので、話に夢中になられるな。
食べかけの天ぷらをあまり他人の目につくように置かれないこと。
【型38】とりのもも焼き
- ももの骨に銀紙が巻かれているが、なければ、懐紙、紙ナプキンを巻いて、左手でももの端をおさえ、箸でももの身をほぐしてから食べる。
- 骨の上には、懐紙をかけて置く。
【型39】くし焼き
- 左手でくしの端をおさえ、箸で身を1つずつはずす。
- そそうをして落としたり、たれをたらしたりしないように、懐紙を口の下あたりに添えていただく。
- 一度に全部をはずさず、一本分を食べ終わったならば、次のくしをはずす。
はずしにくいときは、くしを回しながらはずすとよい。
【型40】うな重の食べ方
- 鰻(うなぎ)は、夏から秋にかけてのものが美味である。
関西では、うなぎを腹開き、関東では、背開きにする。
- うな重のうなぎの尾は、手前に来るように置かれている。
頭のほうより尾のほうが、肉のりも厚くておいしいからである。
- 吸物は例外として左側に置く。
お重を置いたまま食べるので、右側に吸物を置くと食べにくいからである。
- 食べ方
- うな重の蓋を両手で取り、お重の向こう側に、あお向けに置く。
- きも吸いの椀の蓋を取り、あお向けにして、お重の蓋の上にのせる。
- きも吸いの椀を持ち、一口飲んでから、うな重を食べ始める。
- 手前の左端から一口ごとにうなぎを切り、ご飯といっしょに食べる。
- 食べ終われば、うな重、吸物の蓋をもとどおりにする。
【型41】すし
- すしの由来
- 奈良時代には、魚貝類に塩をして押し、2〜3ヵ月ならして自然醗酵させる貯蔵法があった。
このとき、自然に出る酸味を「酸(す)し」といい、すしの名は、ここにはじまった。
- 魚と飯とをいっしょに押して食べるようになったのは、室町時代の後期である。
- やがて、短時間で、種をなれさせる生成(なまなれ)が普通になり、飯は酸っぱくても魚は、まだ、生(なま )のうちに食べるようになった。
- 酢めしをにぎって、新鮮な魚貝の切り身をのせる、にぎりずしが、文政年間(1820年代)に江戸に現われた。
- このにきりずしは、両国の与兵衛ずし、萬屋与兵衛が工夫したと、一般には伝えられている。
- すしのことば
- とろ …… まぐろの腹近く、脂肪分の多いところ
- げそ …… いかの足
- おどり …… えびの皮をとったもの
- かっぱ …… きうり(カッパの好物)
- ひも …… 赤貝のひも
- さび …… わさび
- がり …… しょうが
- しゃり …… ご飯
- むらさき …… 醤油
- あがり …… 茶
- すしを食べる順序
鮪(まぐろ)からはじまって、魚 → 貝 → 卵と食べ、のり巻、カッパ巻きなど、生臭くないもので終わるのが、食べ方のコースである。
- すし屋の格
卵焼き、こはだ、アナゴを食べれば、その店の腕前がわかるといわれる。
卵焼きの味かげん、こはだの塩かげん、酢のしめかげん、アナゴの煮かげんは、板前の腕の見せどころである。
- すしのとり方
- 習慣上、同じたねを2個ずつ握る。1個だけほしいときは、その旨、伝える。
- たねにひとさし指をあてて、親指と中指でつまみ、裏返して、たねが下になるようにして醤油につける。
- たねを醤油にちょっとつけ、舌の上にたねがあたるように食べる。
- 箸でのつまみ方は、すしの中ほどを箸ではさみ、下からすくうようにする。
- または、横に倒すようにしてつまみあげ、たねに醤油を、少し、つけて食べる。
- 盛りこみずしの場合、箸で食べられるように、やや固めに握ってあるので、箸で取られよ。
- 女性は、正装しているときや正さんのときは、箸を使ったほうが上品にみえる。
- すしが1人前に盛られてだされたときは、器の手前からつまんでゆき、嫌いなものは、向こう側の端のほうに入れ替えられよ。
- すしの食べ方
- 大きなにぎりは、ひと口で食べるものではない。
- 大きなにぎりの場合、箸で切れる卵などは2つに切る。
- 箸で切れない、イカなどは、箸先でたねをはがし、ご飯を半分だけ先に食べてから、残りをたねにくるんで食べる。
- たねだけ食べ、ご飯を残したままというのは、「おいはぎ」といって嫌われる。
- のりの手巻きずしは、手でうけてそのまま食べる。
- 醤油がしたたり落ちないよう、うけながら食べる。
受け皿がないときは、懐紙、椀の蓋を使う。
- 醤油
- 醤油は、生物だけにつける。
酢でしめてある、いわゆる、ひかりものや卵焼きなどにはつけない。
- アナゴ、シャコ、はまぐりなど、煮たものには、タレがついているので醤油をつける必要はない。
- ガリ
- ガリは生臭い魚の臭みを消したり、前の味を消して、舌の感覚をあらたにするためにつまむものである。
- わさびのききすぎは、熱い茶を飲むよりガリを食べたほうが、からさがやわらぐ。
- あがり
大きな湯飲みでだされるお茶も口直しの役目となっている。
1つつまむごとにお茶を飲む。
- 郷土ずし
- 酒ずし(鹿児島) ………… 赤酒(地酒)を使った押しずし。
- 大村ずし(長崎) ………… 大きい押し枠で作る、具の多い押しずし。
- 祭りずし(岡山 ) ………… 海、山の幸をふんだんに入れた豪華なちらしずし。
- めはりずし(和歌山) …… 高菜や広島菜の漬けものの葉で包む。
- 信玄ずし(山梨) ……… 戦国時代に日持ちするように作られたすし。
- 鱒(ます)ずし(富山)…… 酢に30分ほどつけて、皮をとり、薄いそぎ切りにする。
【型42】エビの姿焼き
左手で頭の部分を押さえ、右手で身の部分を持って折り曲げるようにして頭を取る。
続いて殻も手を使って開き、懐紙かおしぼりで手をふいてから、箸を使って食べる。
【型43】焼きはまぐり
- 貝殻は、すぐに取れるようになっているので、はじめに、右手の箸で軽く押さえ、左手で殻のふたをあける。
身の入っている殻を左手で押さえ、箸で身と殻をはずす。
- 殻ごと、懐紙か茶わんのふたに受けて食べる。
貝のつゆは、そのまま、直接すする。
【型44】かに
甲らも足も、食べやすいように、殻に包丁を入れてあるのが普通である。
左手で殻ごと持って、箸で身を殻から取り出し、二杯酢かポン酢じょう油にちょっと浸して食べる。
箸の代わりに、かにのはさみの先で身を取り出すこともある。
二杯酢などの小鉢は手に持って、つゆをたらさないように食べる。
食べ終わったら、殻をまとめる。
【型45】もろきゅう
きゅうりの端を左手で持ち、箸でもろみ味噌を少しつける。
箸でつけにくいときは、きゅうりを直接味噌につけて食べてもかまわない。
小皿か、懐紙を下に受けて食べる。
【型46】でんがく
串を左手で持ち、箸で豆腐をはずす。器の中で豆腐を適当な大きさに切り、味噌がたれないように懐紙に受けていただく。
1つ食べ終わってから、次の串をはずす。
【型47】おしぼり
おしぼりは上座に出されよ。
使ったら、下座、または、膳の下に置く。
決して、膳の上においてはならない。
手でつまんで食べるものの場合、亭主側から手をふきながら食べるように申し出があったならば、おしぼりで手をふきながら食べてもよい。
このとき、おしぼりは、上座、下座どちらにおいてもよい。
食べおわったら下座におく。
【型48】食事のしめくくり
- 本膳宴会料理では食事が終わると、煎茶が出されず、湯桶で白湯(さゆ )…… 薄い重湯に塩味をきかせたもの …… が出るので、ご飯または汁の椀に受けて、椀を洗い、箸先を湯の中できれいにし、最後に、その汁を呑む。
茶懐石では、湯桶に湯の子(ご飯のおこげ)が入っているので、湯の子すくいで椀に受ける。
- この洗い汁を飲むことは、古来一般の通則である。
- 飲み終わったならば、しめくくりとして、懐紙で膳に落ちたしずくを押さえて拭き、食べた食器を整えて食事を終える。
【参考1】
果物は、明治以降になって宴会のときに出すようになった。
本膳料理にはない。
元来、菓子といえば、果物のことをさした。
のちに、水菓子というようになった。というのは、平安時代に、大陸から本物の菓子が伝わったからである。
この時代の菓子には、主菓子(ようかん、まんじゅう )と干菓子(らくがん、せんべい、麦こがし)があった。
で、のちに干柿などは、菓子と呼び、生ものを水菓子と呼んだ。
【参考2】本膳宴会料理
- 本膳料理では、飯、汁が主であるが、本膳宴会料理では、酒が主である。
料理のはじめにだされる吸物膳には、はじめから、箸の上に盃がふせてある。
この吸物膳を、先に出し、本膳、二の膳の順に料理をすすめる。
この出し方を「乱酒」と呼ぶ。
- 宴会料理には、「お通し」がだされるのが特徴である。
「お通し」は、「先付」、「突き出し」ともいい、もとは、「口取」である。
「吸物」と「酒」のあと、「口取」が出たが、口取のようなものを、少量、はじめに出すほうがよいと考えるようになった。
これが「お通し」である。
そこで、「お通し」、「吸物」という型が生まれた。
《料理の出し物》
- まず、茶を出し、菓子(干菓子、蒸し菓子)をすすめる。
- 吸物膳(吸物、盃、箸、お通し)を出す。
【説明】
- 昔は、吸物椀の蓋を取り、酒を受けた。いまは、盃がついていることが多い。
- 酒がつがれたら、1度、膳に置き、みんなに酒がつぎ終わるまで待ち、正客に合わせて飲む。
- 酒を一杯飲んでから箸をつける。
- 「お通し」より量の多い前菜が、さらに、膳の外側に置かれることがある。
- 吸物膳をさげ、本膳(飯、汁、香の物、平、なます)を出す。
- 一汁三菜のときは、焼物膳も出す。
二の汁が出るときは、二の膳といっしょに焼物膳を出す。
- 湯と水を用意し、湯をすすめ、水を望まれたら水をすすめる。
- 一汁三菜であれば、菓子に煎茶か抹茶を出し、二汁五菜であれば、蒸し菓子に膿茶(帛紗(ふくさ)を添えて出す)、さらに、干菓子に薄茶(帛紗を添えない)を出す。
【参考3】宴会料理
- この料理形式は、現在、宴会などで広く行われている。
- 本膳宴会料理の吸物膳と本膳がいっしょになり、本膳には、「平」、「刺身」、「お通し」、「吸物」、「箸」、「盃」がだされ、本膳の「飯」、「汁」、「香の物」は、「止め椀」といって、料理がひととおり終わるころ出される。
- 二の膳、三の膳がつくことは、本膳宴会料理と同じである。
- 食事のさい、さげられた本膳の器のあとに、二の膳、三の膳の器を取り込んで、食べてよいが、器の移動の際、器の底で塗りものの膳を傷つけないように注意すること。
【参考4】座卓宴会料理
- 膳、折敷を使わないで、ちゃぶ台やテーブルに順次、一品ずつ出してゆく宴会料理である。
- このほかに、1度に、全部、セットしてしまう方法もある。
この形式は、旅館の夕食、朝食に用いられている。
《料理の出し順》
- 箸、箸置、盃、グラスを置く。
箸はテーブルの端から5cm ほど離して置く。
盃は箸の上に伏せて置く。
- 前菜、お通し、飲み物を出す。
- 吸物を出す。
吸物は、お通しをさげた位置に出す。
- 前菜を動かし、前菜の右隣に刺身を出す。
- 焼物、煮物を出す。
前菜と吸物をさげ、前菜のあとに煮物、吸物のあとに焼物を出す。
- 揚物と天つゆを置く。
刺身をさげた位置に置く。
- 全部さげ、飯、汁、香の物を出す。
- 全部さげ、茶を出す。
- 果物を出す。茶はそのまま残して置く。
《旅館の夕食》
飲み物をいっしょにセットして置くとともに、飯びつ、飯、汁、茶をのせた通い盆をテーブルの近くの畳の上などに用意して置く。
《旅館の朝食》
【参考5】盛り込み宴会料理
- 座卓による宴会料理の1つである。
- 膳、折敷を使わず、何品かの料理が大皿で出されるもので、各人は、その料理を取り皿に取って食べる。
- 大皿には、飾りものが添えられて豪華である。
- ちゃぶ台、テーブルに順次、出してゆくやり方は、座卓による宴会料理と同じである。
- 大皿は4〜5回程度が限度であり、汁物は、盛りこめないし、煮物も大皿から取ったあとが汚れて見えるので好ましくない。
大皿を出したときは、必ず、各人にとり皿を出す。
- 盛りこみ皿でよいもの …… 前菜、刺身、焼物、揚物
- 個人別がよいもの ……… お通し、吸物、煮物、飯、香の物、果物
《料理の出し順》
- 箸、箸置、盃、グラスを置く。
- 前菜とり皿、お通し、飲み物を出す。
- 吸物、刺身とり皿を置く。
お通しをさげた位置に吸物、前菜とり皿をさげた位置に、刺身とり皿を置く。
- 焼物とり皿を置く。
吸物をさげ、刺身を右へ少し動かし、焼物とり皿を置く。
- 刺身とり皿をさげ、そのあとへ煮物を出す。
- 焼物とり皿をさげ、煮物を左へ動かして、揚物とり皿を置く。
- 全部さげ、飯、汁、香の物を出す。
- 全部さげ、茶を出す。
- 果物を出す。茶をそのまま残して置く。
【参考6】宴会料理の献立例
- 祝い膳
鶴香合…… 五色なます、色紙数の子
亀香合…… 黒豆、結びごぼう
吸物…… のし目椀、夫婦はまぐり
神馬草…… 祝い粉
朱木林 …… 銚子
- 雑煮椀(正月にかぎる )
ふくさ仕立て、小角餅、鶴の子いも、亀甲大根、鯛、のしえび、つる菜
- お造り
紅白、まぐろ平造り、紋甲いか鳴門巻き、平目そぎ造り、花穂じそ、芽じそ、紅たで、わさび、醤油
- 口取り肴
片木盛り、伊勢えび姿焼き、金銀水引かけ、紅白かまぼこ、亀甲錦たまご、栗ふくませ、菊かぶら、のしうずら山椒焼き、酢どりみょうが、かいしき菊花
- 焼物
鯛浜焼き、矢ばね蓮根、松葉飾り
- 煮合わせ
扇長いも、紅梅人参、白梅くわい、さやえんどう、たけのこ、合鴨葛たたき
- 赤飯
蒸し器入り
- 汁
三州仕立て、あられかまぼこ、みじん三つ葉
- 香の物
たくあん、奈良漬け、梅干し、かぶ、なす
なお、和食には、このほか「盛りこみ料理」というのがある。
これは、大皿に盛って供す料理で、宴会料理に対して、いわば、中国料理風ともいうべきものである。
これは、中国、オランダ、ポルトガルなどの外来文化の影響を受けて生まれた。
「盛りこみ料理」の流れを享けるものは、「卓袱(しっぽく)料理」であり、土佐における「皿鉢(さわち)料理」であり、また、江戸中期に黄檗宗の僧、隠元によって伝えられた、油を多く使う「普茶料理」であった。
第6章 和式作法