第6章 和式作法 ◆第16節 茶懐石料理作法
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第16節 茶懐石料理作法

【型1】すすめかた いただきかた
【型2】茶懐石の料理の器

【型1】すすめかた いただきかた

亭主(主人)と客を対応させながら茶懐石の作法を具体的に、下記に印(しる)す。
以下、亭主印を亭主側、客印を客側として説明してゆく。


  1. 向付け、汁、ご飯

    亭主順序としては、まず、折敷*(足のない膳)の中央の向こうに「向付け(むこうづけ)」、手前右寄りに「汁」、左寄りに「飯」の3品を、三角形になるように調和よく置く。(図1)

    245a
    245b

    1. 杉箸は、取りやすいように、折敷の右ふちに約2cm くらい(指2本分)を出して添え置く(図2 )。
      この杉箸は、あらかじめ、かならず水につけておき、使う前にかわいた布で水気をふき取って出す。

    2. 飯椀には、炊きたてのご飯を一文字(または、三日月型)に、ひと口ほど椀の中に盛る。

    3. 汁は、茶懐石において、原則として味噌汁仕立てである。
      味噌は、季節によって「冬は白味噌」「夏は赤味噌」、また、白と赤を合わせた味噌などを、おもに使い分ける。
      自家製の味噌も、心がこもっていて喜ばれる。
      味噌汁の実は、その季節の香り豊かな野菜類や、麩(生麩)、湯葉、豆腐、海草などを用いる。汁には、魚肉類を使わないのがふつうである。
      そのとき、そのときの茶事の主旨によって、たとえば、結びこんぶ、結び湯葉、あずきなどを使ったりする。
      この汁の実は、別鋼で下煮しておいて、椀に盛り、煮えばなの汁を張るのがよい。そして、供する直前にかならず、適当な吸口を入れる。

    4. 折敷を正客から順に運び出して、来客まで運び終わると、亭主は、給仕口に下がって、ここから、「どうぞ、お召し上がりくださいませ」と、挨拶して次の間へ下がる。

    5. 客客のほうは、運ばれてきた折敷を両手で受け取り、前に置く。
      左手で飯椀の蓋を、右手で汁椀の蓋を同時に取って、汁の蓋を飯の蓋にかぶせてこれを折敷の右側へ置く(図3 )。
      246a

    6. 飯椀を左手に持って箸を取り、ひと口食べて、次に汁をひと口飲んで、器を元の場所に置き、ご飯と汁の椀の蓋をしておく。
      1度口にした箸は、先を折敷の左ふちに少し出して置く。
      ふちのある折敷には、箸置きを使えないから、左のふちを箸置きと考えるわけである。


  2. 酒(1献)

    1. 亭主ここで酒を出す(図4)。
      「酒3献」というように、ここですすめる酒が、第1献の酒である。
      つづいて焼きもの、八寸で、2献、3献を出すわけである。
      右手に銚子、左手に客の数だけの盃を重ねて盃台に乗せ、正客の前にすわる。
      正客から順に酒をついで回り、ふたたび正客の前にすわって銚子を預ける。
      246b

    2. 客客のほうは、酒を飲んだならば、盃を向付けの右隣に置く(図5 )。
       ここで、はじめて向付けに箸をつける。
      247a

  3. ご飯と汁のお代わり

    1. 亭主飯器(図6)には、最初、客の人数に応じて、ご飯の量を見はからって盛る。
      飯器を持って正客の前に座り、「ご飯をどうぞ」と挨拶して、正客の前に置く。
      そして、汁のお代わりを正客に勧める。
      盆に、正客の汁椀を乗せて持ち帰り、すぐ、引き返して2客の汁椀も持ち帰る。
      そして、次に出て来たとき、正客の汁を持って来て、そのとき、3客の汁椀を持ち帰る。
      続いて、2客の汁椀を持って出て、4客の汁椀を持ち帰る、というように、次々と汁のお代わりをする。
      最後の汁椀を持って出たら、よそい終わった空の飯器を下げる。
      247b

    2. 客一方、客のほうは、亭主が飯器を正客の前に置き、ご飯をよそいましょうと言われたならば、「どうぞおまかせを」と答えて、飯器を受け取る。
      そして、飯器の蓋を取り、これを2客へ手渡し、次々と末客まで送っていく。
      ご飯を飯碗に付けたら、飯器も次客へ送る。


  4. 椀盛り

    1. 亭主つぎに、椀盛りを運ぶ。前に出た汁が味噌汁仕立てであるから、煮もの椀は、すまし仕立てにする。
      また、汁は野菜が主であるのに対して、椀盛りの実は、季節の魚肉や鳥肉を豊富に使って、濃厚なものと淡白なものとを組み合わせ、かならず、青い野菜と吸口を添える。
      茶懐石の椀盛りは、一汁三菜の中の菜の1つと考えるので、量を多くして、椀盛りが全体の頂点となるように持ってくるべき料理である。

    2. 亭主正客の椀盛りを丸盆に乗せて運び、あとの客は、長盆で持って行く(図7 )。
      「冷めないうちにどうぞ」と挨拶して下がる。
      248a

    3. 客客のほうは、受け取ったらすぐにいただく。


  5. 酒(2献)

    亭主ここで、第2献の酒を出す。
    客客のほうは、酒がいらなければ断わる。


  6. 焼きもの 248b

    1. 亭主焼きもの(図8 )を次に出す。
      焼きものは、魚や鳥の焼いたものが主であるが、必ずしも、そうでなくてはならないわけでない。
      ときとしては、蒸したもの、煮たもの、揚げたものでもよい。
      また、野菜や精進もの(湯葉、豆腐など)でもよく、これは、範囲の広いものである。
      焼きものの器は、鉢、皿、手鉢、蓋ものなどの陶器類や、焼物重を使う。
      これには、青竹の両細の箸を水に濡らし、軽く拭って添える。
      正客の前へ「どうぞお取りまわしてくださいませ」と言って置く。

    2. 客客は、焼物の鉢を受け取り、椀盛りの蓋の上へ、焼いたものをひと切れ取り置いて、次客へ手渡す(図9 )。
    249

  7. ご飯(2回目)

    1. 亭主焼物に続いて、2回目のご飯を出す。
      飯器に、こんどは充分にご飯を盛って、前と同様に持ち出す。
      正客に預けて、もう1度汁のお代わりを勧める。

    2. 客客のほうは、飯器を受け取って自分の飯椀に付け、次客へ送る。
      汁の場合、2度目は普通辞退する。しかし、欲しければいただいてもかまわない。


  8. 預け鉢

    1. 預け鉢を正客に預けて、「ごゆっくりお召し上がりください」と挨拶して、ここで亭主は給仕口の外へ下がる。


  9. 以上で、一汁三菜の茶懐石料理の食事が一応終わるのであるが、こののち、亭主と客との盃事が行われる。


  10. 箸洗い

    1. 気分を新たに行なうため、一汁三菜を使った箸と、口中を洗い清めるという意味で箸洗いと言われる湯吸ものを出す。

      250a
    2. 亭主給仕盆に正客の箸洗い(図10 )を乗せて、給仕口を開く。
      「不加減で失礼を致しました」と挨拶をして入り、飯器や、その他、空になった器を下げて、箸洗いを正客の前へ出す。
      このとき、空になった正客の椀を下げる。続いて、長盆に正客以外の箸洗いを持って入り、同じように椀を引き、給仕口へ下がる。


  11. 八寸*・酒(3献)

    1. 一汁三菜が終わったあと、亭主と客が、そのひとときを持てたことを喜んで盃を交す。
      そのとき、酒の肴として出てくるのが、8寸角の杉木地の器に盛られた、2種の肴である。
      これを八寸と呼ぶ。

    2. 亭主客が、箸洗いを終わったころを見はからって、左手に八寸、右手に銚子を持って入る。
      八寸4方盆は、綴じ目が向こう側に来るように置き(図11)、右向こうへ山のもの(植物性のもの)を盛り、左手前に海のもの(動物性のもの)を盛って、青竹両細箸を濡らして添える。
      八寸には、ごく少量の気のきいたものを選んで、バランスよく盛り付けることが大切である。
      250b

    3. 左手に八寸、右手に銚子を持って正客の前に座り、酒を注ぐ。
      そして、八寸の1種の肴、山のものを付ける。客に山のものを付けたならば、「お流れを」と、正客に盃を借りることを亭主は乞う。
      正客は、「ご用意があれば、別盃をどうぞ」と答える。
      亭主は、「持ち合わせませんので」と言って、正客の盃を借りる。

    4. 客客のほうは、盃の飲み口を懐紙で拭いて、盃台に乗せ、亭主のほうに差し出す。

    5. 亭主正客の盃を借りた亭主は、2客から酌をしてもらい、亭主がそれを飲む。
      飲み終えたら、こんどは、2客が「お流れを」と亭主が飲んだ盃を乞う。
      そこで、亭主は、正客に「この盃をしばらく拝借させてくださいませ」と断わって、懐紙で飲み口を拭い、2客に渡して酌をする。
      そして、肴を2客に付ける。再び、2客が飲んだ盃で、亭主は3客から酒を注いでもらって飲み、それを3客へというように、最後の客まで亭主は、ひとりずつ肴を付けながら、献酬して回る。ひと回りしたならば、正客のところへ戻って、正客に盃を返して酌をする。


  12. 湯桶(ゆとう)*
    251
    1. 亭主湯斗(湯桶・図12 )と香のものを運ぶ。
      正客の前にこれを預けて、全員の空になった箸洗いの器を長盆に乗せて持ち帰る。

    2. 客客のほうは、香のものを先にもらい、湯斗は、「どうぞ、おまかせを」といって受け取る。
      湯斗の蓋を次々手送りで次客へ回す。湯と湯の子を飯椀に取り、次客へ送る。
      香のものも、向付けの器に取ったら次客へ送る。
      食べ終わったら、箸をいっせいに膳に落とす(置く)。

    3. 亭主この音を合図に、亭主は給仕口をあけ、器を正客のものから順に引き下げて終わりとする。

【型2】茶懐石の料理の器
  1. 日本料理の食器の形、色の美しさは、料理を引き立て、楽しい雰囲気を作り、料理をおいしくする大切な要素である。
    色、形に加えて、もう1つ日本料理の食器には、大切なことがある。

  2. 洋食器の場合は、スプーンやフォークを使って、食べものを器から口へ運ぶが、日本料理の場合、箸を用いるから、汁椀、煮もの椀、飯碗、すべて食器を卓上から持ち上げる。
    そして、器を口につける。
    であるから、持ち上げたときに、持ちやすいこと、手ざわりがよいこと、安定性があること、また、口をつけたときの唇の感触のよさなどが大切になってくる。

  3. 正式な茶懐石の器は、原則として、漆器の一揃ということになっている。
    ふつう5人前を一組として、折敷、飯椀、汁椀、盃(盃台、銚子)、煮もの椀、飯器(飯じゃくし)、重箱、箸洗い、八寸、湯斗(湯子掬)、これに長盆、丸盆である。向付けの器だけは、陶磁器である。


第6章 和式作法
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