第16節 茶懐石料理作法
【型1】すすめかた いただきかた
亭主(主人)と客を対応させながら茶懐石の作法を具体的に、下記に印(しる)す。
以下、印を亭主側、印を客側として説明してゆく。
- 向付け、汁、ご飯
順序としては、まず、折敷*(足のない膳)の中央の向こうに「向付け(むこうづけ)」、手前右寄りに「汁」、左寄りに「飯」の3品を、三角形になるように調和よく置く。(図1)
第6章15節【型2】「折敷」を開きます。
- 杉箸は、取りやすいように、折敷の右ふちに約2cm くらい(指2本分)を出して添え置く(図2 )。
この杉箸は、あらかじめ、かならず水につけておき、使う前にかわいた布で水気をふき取って出す。
- 飯椀には、炊きたてのご飯を一文字(または、三日月型)に、ひと口ほど椀の中に盛る。
- 汁は、茶懐石において、原則として味噌汁仕立てである。
味噌は、季節によって「冬は白味噌」「夏は赤味噌」、また、白と赤を合わせた味噌などを、おもに使い分ける。
自家製の味噌も、心がこもっていて喜ばれる。
味噌汁の実は、その季節の香り豊かな野菜類や、麩(生麩)、湯葉、豆腐、海草などを用いる。汁には、魚肉類を使わないのがふつうである。
そのとき、そのときの茶事の主旨によって、たとえば、結びこんぶ、結び湯葉、あずきなどを使ったりする。
この汁の実は、別鋼で下煮しておいて、椀に盛り、煮えばなの汁を張るのがよい。そして、供する直前にかならず、適当な吸口を入れる。
- 折敷を正客から順に運び出して、来客まで運び終わると、亭主は、給仕口に下がって、ここから、「どうぞ、お召し上がりくださいませ」と、挨拶して次の間へ下がる。
- 客のほうは、運ばれてきた折敷を両手で受け取り、前に置く。
左手で飯椀の蓋を、右手で汁椀の蓋を同時に取って、汁の蓋を飯の蓋にかぶせてこれを折敷の右側へ置く(図3 )。
- 飯椀を左手に持って箸を取り、ひと口食べて、次に汁をひと口飲んで、器を元の場所に置き、ご飯と汁の椀の蓋をしておく。
1度口にした箸は、先を折敷の左ふちに少し出して置く。
ふちのある折敷には、箸置きを使えないから、左のふちを箸置きと考えるわけである。
- 酒(1献)
- ここで酒を出す(図4)。
「酒3献」というように、ここですすめる酒が、第1献の酒である。
つづいて焼きもの、八寸で、2献、3献を出すわけである。
右手に銚子、左手に客の数だけの盃を重ねて盃台に乗せ、正客の前にすわる。
正客から順に酒をついで回り、ふたたび正客の前にすわって銚子を預ける。
- 客のほうは、酒を飲んだならば、盃を向付けの右隣に置く(図5
)。
ここで、はじめて向付けに箸をつける。
- ご飯と汁のお代わり
- 飯器(図6)には、最初、客の人数に応じて、ご飯の量を見はからって盛る。
飯器を持って正客の前に座り、「ご飯をどうぞ」と挨拶して、正客の前に置く。
そして、汁のお代わりを正客に勧める。
盆に、正客の汁椀を乗せて持ち帰り、すぐ、引き返して2客の汁椀も持ち帰る。
そして、次に出て来たとき、正客の汁を持って来て、そのとき、3客の汁椀を持ち帰る。
続いて、2客の汁椀を持って出て、4客の汁椀を持ち帰る、というように、次々と汁のお代わりをする。
最後の汁椀を持って出たら、よそい終わった空の飯器を下げる。
- 一方、客のほうは、亭主が飯器を正客の前に置き、ご飯をよそいましょうと言われたならば、「どうぞおまかせを」と答えて、飯器を受け取る。
そして、飯器の蓋を取り、これを2客へ手渡し、次々と末客まで送っていく。
ご飯を飯碗に付けたら、飯器も次客へ送る。
- 椀盛り
- つぎに、椀盛りを運ぶ。前に出た汁が味噌汁仕立てであるから、煮もの椀は、すまし仕立てにする。
また、汁は野菜が主であるのに対して、椀盛りの実は、季節の魚肉や鳥肉を豊富に使って、濃厚なものと淡白なものとを組み合わせ、かならず、青い野菜と吸口を添える。
茶懐石の椀盛りは、一汁三菜の中の菜の1つと考えるので、量を多くして、椀盛りが全体の頂点となるように持ってくるべき料理である。
- 正客の椀盛りを丸盆に乗せて運び、あとの客は、長盆で持って行く(図7
)。
「冷めないうちにどうぞ」と挨拶して下がる。
- 客のほうは、受け取ったらすぐにいただく。
- 酒(2献)
ここで、第2献の酒を出す。
客のほうは、酒がいらなければ断わる。
- 焼きもの
- 焼きもの(図8 )を次に出す。
焼きものは、魚や鳥の焼いたものが主であるが、必ずしも、そうでなくてはならないわけでない。
ときとしては、蒸したもの、煮たもの、揚げたものでもよい。
また、野菜や精進もの(湯葉、豆腐など)でもよく、これは、範囲の広いものである。
焼きものの器は、鉢、皿、手鉢、蓋ものなどの陶器類や、焼物重を使う。
これには、青竹の両細の箸を水に濡らし、軽く拭って添える。
正客の前へ「どうぞお取りまわしてくださいませ」と言って置く。
- 客は、焼物の鉢を受け取り、椀盛りの蓋の上へ、焼いたものをひと切れ取り置いて、次客へ手渡す(図9
)。
- ご飯(2回目)
- 焼物に続いて、2回目のご飯を出す。
飯器に、こんどは充分にご飯を盛って、前と同様に持ち出す。
正客に預けて、もう1度汁のお代わりを勧める。
- 客のほうは、飯器を受け取って自分の飯椀に付け、次客へ送る。
汁の場合、2度目は普通辞退する。しかし、欲しければいただいてもかまわない。
- 預け鉢
- 預け鉢を正客に預けて、「ごゆっくりお召し上がりください」と挨拶して、ここで亭主は給仕口の外へ下がる。
- 以上で、一汁三菜の茶懐石料理の食事が一応終わるのであるが、こののち、亭主と客との盃事が行われる。
- 箸洗い
- 気分を新たに行なうため、一汁三菜を使った箸と、口中を洗い清めるという意味で箸洗いと言われる湯吸ものを出す。
- 給仕盆に正客の箸洗い(図10
)を乗せて、給仕口を開く。
「不加減で失礼を致しました」と挨拶をして入り、飯器や、その他、空になった器を下げて、箸洗いを正客の前へ出す。
このとき、空になった正客の椀を下げる。続いて、長盆に正客以外の箸洗いを持って入り、同じように椀を引き、給仕口へ下がる。
- 八寸*・酒(3献)
第6章15節「型1説明」を開きます。
- 一汁三菜が終わったあと、亭主と客が、そのひとときを持てたことを喜んで盃を交す。
そのとき、酒の肴として出てくるのが、8寸角の杉木地の器に盛られた、2種の肴である。
これを八寸と呼ぶ。
- 客が、箸洗いを終わったころを見はからって、左手に八寸、右手に銚子を持って入る。
八寸4方盆は、綴じ目が向こう側に来るように置き(図11)、右向こうへ山のもの(植物性のもの)を盛り、左手前に海のもの(動物性のもの)を盛って、青竹両細箸を濡らして添える。
八寸には、ごく少量の気のきいたものを選んで、バランスよく盛り付けることが大切である。
- 左手に八寸、右手に銚子を持って正客の前に座り、酒を注ぐ。
そして、八寸の1種の肴、山のものを付ける。客に山のものを付けたならば、「お流れを」と、正客に盃を借りることを亭主は乞う。
正客は、「ご用意があれば、別盃をどうぞ」と答える。
亭主は、「持ち合わせませんので」と言って、正客の盃を借りる。
- 客のほうは、盃の飲み口を懐紙で拭いて、盃台に乗せ、亭主のほうに差し出す。
- 正客の盃を借りた亭主は、2客から酌をしてもらい、亭主がそれを飲む。
飲み終えたら、こんどは、2客が「お流れを」と亭主が飲んだ盃を乞う。
そこで、亭主は、正客に「この盃をしばらく拝借させてくださいませ」と断わって、懐紙で飲み口を拭い、2客に渡して酌をする。
そして、肴を2客に付ける。再び、2客が飲んだ盃で、亭主は3客から酒を注いでもらって飲み、それを3客へというように、最後の客まで亭主は、ひとりずつ肴を付けながら、献酬して回る。ひと回りしたならば、正客のところへ戻って、正客に盃を返して酌をする。
- 湯桶(ゆとう)*
第6章15節「型1説明」を開きます。
- 湯斗(湯桶・図12 )と香のものを運ぶ。
正客の前にこれを預けて、全員の空になった箸洗いの器を長盆に乗せて持ち帰る。
- 客のほうは、香のものを先にもらい、湯斗は、「どうぞ、おまかせを」といって受け取る。
湯斗の蓋を次々手送りで次客へ回す。湯と湯の子を飯椀に取り、次客へ送る。
香のものも、向付けの器に取ったら次客へ送る。
食べ終わったら、箸をいっせいに膳に落とす(置く)。
- この音を合図に、亭主は給仕口をあけ、器を正客のものから順に引き下げて終わりとする。
【型2】茶懐石の料理の器
- 日本料理の食器の形、色の美しさは、料理を引き立て、楽しい雰囲気を作り、料理をおいしくする大切な要素である。
色、形に加えて、もう1つ日本料理の食器には、大切なことがある。
- 洋食器の場合は、スプーンやフォークを使って、食べものを器から口へ運ぶが、日本料理の場合、箸を用いるから、汁椀、煮もの椀、飯碗、すべて食器を卓上から持ち上げる。
そして、器を口につける。
であるから、持ち上げたときに、持ちやすいこと、手ざわりがよいこと、安定性があること、また、口をつけたときの唇の感触のよさなどが大切になってくる。
- 正式な茶懐石の器は、原則として、漆器の一揃ということになっている。
ふつう5人前を一組として、折敷、飯椀、汁椀、盃(盃台、銚子)、煮もの椀、飯器(飯じゃくし)、重箱、箸洗い、八寸、湯斗(湯子掬)、これに長盆、丸盆である。向付けの器だけは、陶磁器である。
第6章 和式作法