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1994年6月12日
講師紹介
小野 健 先生
講演
「フォッサマグナ探索」


「フォッサマグナ(Fossa・Maguna)」

小野 健


(1)はじめに

これまで関わってきた電気化学事業の一環として、このフォッサマグナミュージ アムの建設にも、その当初から関わってきています。現在は、青海町における博物 館の建設に着手していて、石灰岩やヒスイなどにまつわる話や、白馬から日本海ま での地質・化石・植物などを中心によりローカルなものを考えています。今日はこ の後、現地で巡検をしていくので、ここでは全体の概要を話していきます。


(2)プレートテクトニクスとフォッサマグナ

 地球表面はいくつかのプレートに分かれ、あるところではマグマが上昇し、そし て動きながら循環しています。日本付近では北米プレート、ユーラシアプレート、 太平洋プレート、フィリピンプレートが接し、プレート同士の境界では、その動き によってたまったひずみにより構造性の地震が発生する訳です。プレートの沈み込 みによる圧力の結果からは、ヒスイもできてきます。地球の内部に沈み込んだプレ ートは、温度が上昇しマグマが出来、さらに高い圧力で地表に押し出されると火山 となります。

インド半島などでは、アジアに押しつけられた圧力によって、その後方にヒマラ ヤ山脈ができています、この付近では糸魚川一静岡線を境に地質構造が大きく変わ っています。ここをフォッサマグナと呼んでいますが、ラテン語で「大きな溝」と いう意味で、ナウマンによってつけられました。この溝に土砂がながれ込んで新し い地層ができ、さらには太平洋側からプレートが沈み込んでできた富土火山帯の火 山がどんどん噴出し、その西側には古い地層が露出するという構造が出来ました。

ナウマンが日本に来たのは1875年で、20歳前後の若さでした。地質調査所 を作り、日本中を調査で回り、ナウマン象の化石発見などで有名になっています。 フォッサマグナについては、国内で大きな論争がくりひろげられてきましたが、現 在もナウマンの説が残っています。


(3)糸魚川一静岡構造線の特徴

糸魚川付近の地質の特徴をあげてみると、第一の特徴は姫川を境界として、西南 日本と東北日本というように地質構造が一変し、日本列鳥が二分されていることで す。西側には古い地層、東側には新しい地層があり、古い地層の中から石灰石やヒ スイが見られ、それらを使った文化も生まれている。また、焼山という新しい火山 も存在します。一番古い地層では10億年前ぐらいのものになり、変成岩や黒姫の 石灰岩なども見られ、地球最古の石と云われているものと同様な片麻岩も見られま す。これは非常に大きな圧力を受けてできたものです。糸魚川から柏崎にかけては 天然ガスを含む地層があります。その中にある妙高火山は30万年前から4000 年前ぐらいにかけて噴火活動があり、その後に焼山火山が噴火しています。焼山は 3回ほど噴火しているが、現在も活動中です。非常に狭い地域の中に、10億年前 のものから現在に至るまで、色々な石、地質の変化が見られ貴重な地域と言えます。 フォッサマグナは大きな空間を占め大きな溝になっているもので、その西の縁が糸 魚川一静岡線と考えられます。東の線は柏崎−銚子線や上越−銚子線が言われてい ますが、はっきりせずかなり幅広いものとなっているようです。ボーリングの結果 などから地下断面をみると、糸静線から東に向かって数千メートル以上、急激に落 ちていることもわかります。

面白いことには、日本列島の地質が糸魚川一静岡線によって湾曲しているのがわ かります。ここに飛騨帯・飛騨外縁帯などがあります。これらはもともと中国大陸 にあったたものが離れ、移動してきたものと考えられます。そのとき南には伊豆諸 島があり、押し合いになり曲がってしまい、地溝帯が生まれたと考えられています。 日本列島が移動した後には日本海が生まれ、日本列島を代表する飛騨帯、飛騨外縁 帯、三郡、三波川、四万十帯などがみんな湾曲することになったということです。


(4)石灰岩とヒスイ、ヒスイ文化

川原にいけば、非常に古いものから新しい時代のものまで、何でもあり、石の標 本を採るなら全部集められます、岩石というものはいろんな鉱物が集まって出来て いますが、分類してみると、火山が噴火して出来たもの、地下の途中で固まったも の、地下深いところでゆっくり固まったものと言うように分けられ、それぞれ違う 特徴を持ったものになります。また、構成している鉱物の種類によって、石英が多 いと酸性の岩石とか、少ないとアルカリ性の岩石とかに分けられます。そういうこ とから石の特徴がでますが、この付近には流紋岩・安山若・玄武岩などみんな見ら れ、面白いところになっています。

石灰石というのは日本で自給できる唯一の資源と言われているぐらいなんですが、 日本列島の中にたくさんの鉱床があります。北海道、岩手県、岐阜、関東周辺・秩 父のあたり、このあたりでは青海のあたり、中部から山口、四国、九州へとたくさ んみられます。だいたい日本の石灰石というのは秩父古生層に属するものが多いの ですが、その中で青海の特徴というのは、地層の年代に欠けているところがなく、 ずっとつながっていて注目されるところになっています。化石なんかもいっぱい出 ます。カルストなども浸食が激しく、縦型の化学カルストと呼ばれる深い洞窟が出 来ています。洞窟の中は雪の影響もあって、夏でも気温が非常に低く氷河時代の植 生が残っているところもあり、地下には水量の多い川が流れています。

ヒスイには硬玉と軟玉の二つがありますが、このあたりで言っているのは硬玉ヒ スイの方です。中国で玉といっているのは軟玉=ネフライト=で、組成は全然違い ますが、同じ様な緑色をしています。また、同じヒスイの石の中でも成分は均一で はなく、様々なものが組み合わさっており、色にも変化が出てきます。そして、産 地によって現れる成分に特徴があり、たとえば若狭のものでしたらグロシュラーが みられるので、それによってたぶん若狭のものとわかります。このことは「古代王 権と玉の謎」という本の中のヒスイの項目に僕が書いています。

世界には二大ヒスイ文化圏と呼ばれるものがありますが、これは硬玉ヒスイのこ とで、青海一糸魚川地方のヒスイは、4500年から5000年前ぐらいの縄文時 代から始まっており、もう一つのメゾアメリカのマヤ・オルメカ・アステカとかの ものも硬玉ヒスイ文化ですが、ずっと新しいもので、ここのものはまさに世界最古 のヒスイ文化圏です。中国のものは軟玉で、ちょっと違いますが、同じ玉文化と呼 べるかもしれません。

ヒスイは日本のあちこちで出ます。北海道日高のカムイコタン、青海一糸魚川、 若狭・大屋、長崎からもでます。ただし宝石になるようなきれいなものは、ダント ツにここからのもので、他からは余り出ません。


(5)北アルプスの山々と栂海新道

北アルプスの特徴は、中生代の花崗岩と火山岩から出来ています。その間に古い 地層もぽつぽつ出ています。白馬とか朝日岳あたりの変成岩、美濃帯の変成岩に入 る槍ヶ岳の結晶片岩、それから飛騨帯は立山・黒部のあたりで日本最古の地層が出 てきます。またその上に第四期の火山が被さっています。白馬乗鞍岳、乗鞍、立山、 御岳山、焼岳といったところがあります。焼岳は解禁になって真っ先に登りました が、道なんかまったくなくどこ登ったかわからないような状態で噴火口のまわりを 登ったんですが、今度行ったらきれいな道が出来て、危ないような所は通ってませ んでした。焼岳は大正4年に噴火して、梓川をせき止めて大正池ができました。妙 高は30万年前ぐらいから、4回ぐらい噴火しています。焼山は現在も噴いていま す。

日本列島の造山運動というのは大変激しいのですが、100万年で3000mぐ らい隆起します。しかし、山が高くなればその3分の1は削られるので、実質的な 隆起率は100万年で2000mぐらいといわれています。氷河の跡のカール=圏 谷=なども残っているのは北アルプスの特徴です。

日本のアルプスを世界に紹介したのはウォルター・ウエストンで、上高地ではウ エストン祭がありますが、青海町にも銅像があります。これは彼が白馬を登りに来 たときに、日本のアルプスはどこで消えるんだろうということを確認に、青海を訪 れたんです。それが明治27年です。これを記念して銅像を建て、ウエストン祭を やっています。今年で6回目になりますが、ウエストンが青海に来てちょうど10 0周年にあたります。上高地のは有名ですが、こちらは「海のウエストン祭」とし て育てあげてきました。

栂海新道ですけれど、朝日岳から日本海にかけて日本の脊梁山脈がすとんと海に 落ちるところにありますが、作るのに11年かかりました。登山する場合は朝日岳 にあがって一泊して、二泊三日のコースです。犬ヶ岳にも僕らの作った山小屋があ りますから泊まってもらえます。最近は登山者が増えて、入りきれなくなることも あるので増築しているところです。新しくなれば30人ぐらい来ても泊まれると思 います。アヤメ平〜黒岩平のあたりは、地質的には古生層の蓮華変成帯で、非常に 古いものですが、高山植物帯の特別天然記念物にも指定されていて素晴らしいもの です。大変広い平原になっていて、樹林帯と草原帯に分かれていたり、岩礫の乾い た植物から高層湿原のものまで見られ種類が豊富です。黒岩岳からはやせた尾根と なりますが、地質が変わると地形も変わるんです。この辺は新しくなりジュラ紀・ 白亜紀のものがあります。尻高山を越えると新生代の古第三期の地層になり、海ヘ ドンと行きます。このように稜線を歩くと、地質的には古いものからだんだん新し いものへと変わっていきますし、植生としては高山植物帯から亜高山帯・低山帯・ 海岸植物へと変化を見ることが出来ます。最後に海水パンツを持ってきてドンと海 に飛び込むというのがミソでして、これは世界中探してもないと思います。最近は 日本海から太平洋へとつなげる人も出てきています。


(6)山の見方、歩き方

山を歩く場合、たとえば甲斐駒などを仙水峠から登りますと、がらがらになって 崩れている氷河地形が見られます。あの中に花崗岩の転石が結構入っていますが、 実際には北沢側には花崗岩体がありません。現在の地形でいえば入ってこないはず の甲斐駒側の石があるということは、昔の地形は今と違って尾根のつながりも違っ ていたんだということが判断できます。そういう意味で、ただ歩くんじゃなくて、 石だとか地形をみていると面白くて興味も出てくるんです。

薬師岳なんか行きますと、天然記念物のカールが5つ程あります。だいたい1万 年周期ぐらいで、氷河期と間氷期が繰り返していますが、今の雪線と氷河期の雪線 を比べてみると、日本の各地でカールの出来るところが分かります。氷河期の頃の 森林限界も分かります。植生の変化はだいたいどこでも同じですが、栂海なんかで すと、高度に比べて森林限界が低くなっている。雪の多さなどがあるんだと思いま す。

最後に火山ですが、日本の場合多くの国立公園が火山地形です。富士山などはコ ニーデと呼ばれる成層火山です。キラウエアなどのだらだらと流れるのは、シリカ の少ない玄武岩系・アルカリ岩のもので、溶岩の粘性が少なく流れてしまって出来 ます。反対にシリカの多い岩石ですと、すぐに冷やされ固まって急峻な火山になり ます。一般にカルデラなどが出来るのは、溶岩がどんどん流出して内部が空洞にな り、圧力が低くなってあるときどすんと陥没します。そこに水がたまればカルデラ 湖になります。白馬大池もカルデラ湖です。立山なんかは、昔はもっと高かったの が噴火で飛ばされ、侵食されて低くなってしまったと言われています。

フォッサマグナに入ってきている富士火山帯の一番北側は、焼山・妙高です、さ らに鳥海火山や白馬乗鞍火山、那須火山帯などいろんな火山帯が集まってきていて、 みんなそれぞれ違った特色を持っています。焼山は3000年前ぐらいから活動し ていて、妙高も4回くらい大きく噴火しています。地形からもそんな様子が分かり ます。

毎年正月には山に登っています。30数年間、下界で正月は一回もないんです。 最近は元日の天気がよくて、スライドでまたお見せします。この後は、御風記念館 からフォッサマグナパーク、小滝のヒスイ峡に向かいます。