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1994年6月12日
講師紹介
小野 健 先生
特別寄稿
「日本列島を東西に分けるフォッサマグナ」

特別寄稿

「日本列島を東西に分けるフォッサマグナ」

小野 健


1.ナウマンとフォッサマグナ

日本列島の中央部に位置する糸魚川〜西頸城地域を語るとき、きまってヒスイ やフォッサマグナ、 糸魚川〜静岡構造線など地質的な話題がよく聞かれます。

本年4月には糸魚川市に「フオッサマグナ・ミュージアム」がオープンし、2 年後には姫川西側の青海町に「石灰石とヒスイ」をテーマにした自然史博物館が 完成する予定です。

1875年に来日したドイツの地質学者ナウマン博土 (E.Nauman 1 854〜1927)は、このような地域に注目し、1885年糸魚川から静岡に 至る特徴ある地形をGrosser Graben(大地溝帯)として「日本群 島の構造と生成」という論文に発表しました。翌年には、これをラテン語のFo ssa Magnaに改めて報告しています。ナウマンはフォッサマグナを、弧 状山脈を成す一体の陸地が伊豆七島山脈の接近により誘発された横断裂け目の痕 跡であって、陥没地形ではないと考えたのです。現形は造山過程を通してフォッ サマグナの中央に大きな裂け目が走り、そこに噴出した八ヶ岳、蓼科山など一連 の火山寄生物を抱えた長大な横断低地とみられたのです。フォッサマグナの西縁 は、富士川〜釜無川〜諏訪湖〜塩尻峠〜仁科三湖〜姫川のラインで、千曲川上流 から野尻湖の線が東縁の一部とされていました。

1918年東北大学の矢部長克博士(1878〜1969)は、この西縁断層 を糸魚川静岡構造線と名づけました。フォッサマグナの成因について、東京大学 の原田豊吉博士(1860〜1894)はナウマン説に反論し、北翼(北日本) と南翼(西日本)がシナ山系とサハリン山系の別々の地殻の衝突によって形成さ れたとみて、これを富士帯という成因説で発表しました。このように、フォッサ マグナをめぐるナウマン、原田両博士の成因論争は大変激しいものだったといわ れています。その後、1970年信州大学の山下昇博士は信越房豆帯を発表し、 1988年金沢大学の加藤芳輝助教授(当時)は当時フォッサマグナの東縁とい われていた柏崎〜銚子線を、重力の分布差からみて上越〜銚子線ではないかと発 表されています。

いずれにしましても、フォッサマグナの西縁は、日本列島の中央部を横断して 西南日本と東北日本を分ける姫川から静岡に至る250Kmの大横断地溝帯であ ることは明らかです、一般的に、フォッサマグナと糸魚川〜静岡構造線は一体的 にみられていますが、フォッサマグナが面的広がりを持った範囲とすれば糸魚川 〜静岡構造線が、その西縁ラインという関係になります。


2.フオッサマグナの誕生

日本列島は、2500万年ほど前からユーラシア大陸の一部がいくつかの地殻 に分かれて海嶺ができ、横ずれ断層によって移動して形成されたといわれていま す。このとき日本海が開き、フォッサマグナが形成されたのです。糸魚川〜静岡 構造線は、ユーラシアプレートと北米プレートが衝突する接線でもあり、北米プ レートが下にもぐり込んでユーラシアプレートを押し上げているため、西側が隆 起して日本アルブスが形成されたとみられています。東側では、太平洋プレート のもぐり込みにより富士火山帯の活動が活発になり、フォッサマグナの中央部に 火山を噴出し、最北部に今も活動を続けている焼山火山があります。

このように、日本列島周辺は、フィリピン海プレートを含む4つのプレートが 衝突しているため、地震多発地帯にもなっているのです。


3.糸魚川〜青海地方の地質的特徴

当地方は、北部糸魚川〜静岡構造線の姫川をはさんで東西の地質分布に著しい 差があります。

西側は飛騨外縁帯に属する古生代シルル紀後期の青海蓮華変成岩、石炭紀〜ペ ルム紀の青海石灰岩、中生代ジュラ紀〜白亜紀の来馬層堆積岩など古期岩層が広 く分布しています。これら古期岩類の蛇紋岩メランジ帯には、当地が誇るヒスイ 原石や青海石、奴奈川石、鋼玉などの稀石宝石類が含まれています。青海川、小 滝川産のヒスイ原石は、国の天然記念物に指定されていますが、川原や海岸の漂 石はすでに4000年前の縄文中期より人類社会に利用されて、世界最古の硬玉 ヒスイ文化を遺したのです。黒姫山、明星山の石灰岩は、日本列島内帯随一の埋 蔵量を誇り、多種類の古生物化石と奴奈川カルストといわれる豪雪地特有の山岳 溶蝕地形が発達しています。大規模な地下川のある福来口鍾乳洞や深度500m の堅穴を連続する洞穴群は、未開の魅力を秘めた超一級の天然資源です。飛騨山 脈の北延主稜は、3000〜0mのアルプスから日本海に至る山並み(栂海新 道・朝日岳〜親不知日本海)を連ね、地質、地形、植生に大きな特徴があります。 犬ヶ岳(1593m)周辺の来馬層にはアンモナイト、羊歯類などの化石を産し、 恐竜発見の可能性もあります。

姫川東部は、西側の古生層が落ち込んだ基盤上、つまりフォッサマグナ帯に堆 積した新生代の地層と、その上部を覆う火山岩より成っています、地溝帯の深度 は天然ガス試掘の結果によると姫川右岸で700〜800m下がり、能生町藤崎 では3300mより遙か深部に落ち込んでいます。すなわち、フォッサマグナ帯 は新第三紀中新世以後の地層が厚く堆積し、その間隙に噴出したヒン岩、玄武岩、 安山岩、流紋岩、集塊岩などにより海谷峡谷、雨飾山、妙高山、焼山などの頸城 アルプスが形成されているのです。

このように、当地方はフォッサマグナを起因とした、糸魚川〜静岡構造線を境 に東西に生い立ちを異にする北アルプス・頸城アルブスがそびえ、新旧多種類の 岩石を分布して日本列島の中心的位置づけを成しているのです。