講師特別寄稿
青海黒姫山石灰岩と溶蝕地形の特徴小野 健山小舎カルチャーは、毎年、各分野の講師をお招きして、大きな成果を上げてこられましたが、力不足の私が、再度第 12 回カルチャーの講師を受けましたのは、今回の対象が、地元の黒姫山石灰岩地帯の溶蝕地形がテーマだったからです。この地域は、私にとって、何 10 年来通い続けてきた古巣みたいなところなのです。 すでに、随分前から早川さんに依頼されて、前宣伝してきたのに、現地見学が入口のみで終わってしまったのは、誠に残念で申し訳なく思っています。しかし、 1カ月後に、有志 14 名の方が再度来訪され、天候にも恵まれて、日本最深の洞窟群の中から白蓮洞・千里洞・通天洞・大マイコミなどの見学が実現でき、多少ほっとしています。願わくば、見学できなかった方で、希望者が居られたら、再度案内できる機会があればと、勝手に考えているところです。 さて、黒姫山石灰岩と、南部の溶蝕地形の特徴について、少し説明しましょう。 黒姫山は、日本列島を縦断する内帯型 ( 日本海側 ) 石灰岩で、石炭紀〜ペルム紀の秋吉帯に属して、日本海側最大の埋蔵量を誇っています。当地は、古来より石灰の町として知られ、近年は化学工業の原料として、地域の産業を支えてきました。また、日本三百名山の一つとして、全国から登山者が訪れるようになりました。生成過程は、プレート上の海山周辺の浅海性造礁堆積物で、海洋プレートの移動によって集積されたといわれています。石灰石鉱床分布は、北東側が石炭紀で、南西側が新しいペルム紀に移行し、約 1 億年間の生成年代の、代表的な多種類の古生物化石を産出しています。
黒姫山南部は、緩傾斜で積雪量が多く、遅くまで雪渓が残ります。さらに、非石灰岩帯からの、川水が直接石灰岩盤に流入するので、溶蝕地形が発達しやすい環境にあります。石灰岩の溶蝕地形をカルストと呼びますが、ヨーロッパの模式地名が、一般的な呼称となったのです。カルスト形態には、カレン ( 犬牙状 ) ・ドリーネ ( 擂り鉢状凹地 ) ・ウバーレ ( ドリーネの集合地 )・ポノール ( 流水の吸込口 ) ・ポリエ ( 皿状の平坦地 ) などがあます。これらは、地表面の溶蝕形態ですが、さらに地下深部に延長して、縦型の洞窟から横型の鍾乳洞に成長していきます。 今回の見学地マイコミ平は、山地カルストともいわれる立体的な溶蝕形態で、地表面から地下深部へと連続する、日本最深の竪穴から横穴へつながっていく、スケールの大きな洞窟群なのです。石灰岩層が厚く、上流側の流水位と、下流側の地下水位との落差が大きいために竪穴が発達し、地下水位の近くでは流れが緩くなって横穴の鍾乳洞が形成されるのです。つまり、白蓮洞 (513m) ・千里洞 (405m) ・奴奈川洞 (345m) などの通過水は、合流して水量の多い地下川となり、福来口鍾乳洞から吐出されています。 また、開放洞窟から上昇する冷風 (7 〜 10 ℃ ) と、ドリーネ底部に 9 月下旬まで残る雪渓の冷気により、洞口周辺は氷河時代の環境が遺存され、海抜 700m 以下の低位に高山植物の群落がみられ、植生の分布が上下逆転しているのです。このため、千里洞口周辺には、オクヤマガラシ・ミヤマアカバナ・ウサギギク・ムシトリスミレ・ヒメヘビイチゴ・ミヤマダイモンジソウ・キバナノコマノツメ・ノビネチドリ・オオバミゾホウズキ・ミヤマドジョウツナギ・ハクサンシャジンなどの高山植物が分布しています。 このように、黒姫山南部のマイコミ平一帯は、厚層な石灰岩が通年にわたり豊富な水量によって溶蝕作用を受け、大規模な地下洞窟群が形成されました。また、洞窟周辺に氷河地代の環境が遣存されて、植生が上下逆転するなど、他の地域ではみられない、特異な天然文化財的資源を観察することができるのです。
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