第1章 論文の書き方
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第49節 漢字とかなの使い分け


  1. 書く文のうち、どの範囲を漢字にし、どの範囲をかなにすべきであろうか。

    ここには、わたくしの主張が混ざる。
    わたくしは、世界のことばと文字が1つになる日の1日も早いことを願う。
    そういう世界語が、現在の英語であるとは思わないが、ローマ字(ただし、C、Q、Xは不要)であらわすものであってよいと思う。

    こういった方向付けを考え、現代日本語では、さしあたり、漢字をできるだけ、すくなく、用いたいと思う。
    このとき、 ① 分かち書きしない以上、かなでは読みづらいところだけ、漢字にしておく ② 分かち書きしても、なお、かなでは判らなくなるところを、漢字にしておく といった程度に、考えたい。
    ここまでで、現代の観光一般、ホテル、レストラン、旅行業関係の書きものに要求される漢字の多さの程度ともマッチしてくる。
    その先は ③ 同音異語の表現の変更を図る ということで、これには、年数をかけなければなるまい。

  2. まい年、諸君の中には、ホテル・レストラン雑誌の記事での漢字とかなの使いわけを参考にして、書かれる方がある。
    すると、わたくしは、この文書心得で、いけないと言っていることについて、減点してしまう。

    知っていただきたいことは、雑誌記事などに、けっして、すぐれた例が掲げられていると、かぎらないことである。
    かく申すわたくし自身、これらの雑誌に多く書いてきた1人であって、そこで、しくじったと思う表現方法につき、この文書心得で注意を述べているのである。
    やがて、諸君も、これらの雑誌等に、大いに書かれることを期待するので、それにつけ、いま、日本語のあらわしかたにつき、強くなっておいていただくことを願うのである。

  3. 新聞での漢字とかなの使い分けは、特殊のものであって、文化庁国語審議会も、これを容認しているだけで、奨励しているものでない。
    つまり、新聞では、限られた紙面に、できるだけ、多くの内容を入れようとする努力が払われているわけである。

  4. 」「」「」「」「」「」というかなで始まる単語は、その直前のかなと連絡して誤読されやすい。
    で、間に句読点を入れるか、単語を漢字にするかされよ。
    「いい」「たい」「のだ」「ので」「のに」「ては」「では」「ない」「には」「へは」「をば」と、つなげて読まれやすい。
    (例)
    わるいいい伝えが わるい言い伝えが
    区切ったいいかた 区切った言いかた
    かれのだらしなさは かれの、だらしなさは
    論文のできばえは 論文の出来ばえは
    うさぎのにげたあと うさぎの逃げたあと
    くぐってはいる くぐって、はいる
    死んではな実の 死んで花実の
    まっかないちごの まっかな、いちごの
    風呂にはいって 風呂に入って
    右へはみ出す  右へ、はみ出す
    退勢をばん回するため 退勢を、ばん回するため

  5. 文字を、音と訓にわけて眺めたとき、原則として、音(おん)の文字は、小学校教育漢字にある範囲を、漢字で書かれよ。

  6. ただし、つぎの文字は、かな書きされよ。(△2)

    お(御)  ご(御)  ございます
    こんご  こん日  じき(直)
    とくに  ないし(乃至)  ふう(風)
    ほう(方)  よう(様)

  7. 訓(くん)の文字のうち、名詞は、つとめて、漢字で書かれよ。

  8. ただし、つぎの名詞は、つとめて、かな書きされよ。

    あいだ  あたり  あと  
    あまり  いきおい  いな(否)
    うしろ  うち  かぎり
    かたち  かたわら  きわ
    ことし  ことば  さなか
    そば(側) たがい(互)
    じか(近、直)  つぎ(次)  
    とき(時)  ところ  なかば
    ななめ  にがい  はじめ
    はず(筈)  ほか(外)  ほど(程)
    ほとり(辺)  ほまれ  まえ(前)
    まで(迄)  まわり  むね(旨)
    もと(元、下、許)   わけ(訳)  
    わりあい

  9. また、つぎの名詞は、かならず、かな書きされよ。(△2)

    いま  がち(勝ち)  こと(事)  
    ため(為)  ととも(共)に

  10. 訓(くん)の名詞には、つぎのような種類がある。

    単一名詞
    純名詞
    (例)
    朝 泉 海 絵 白粉(おしろい)

    形容名詞
     形容詞から来た名詞
    (例)
    辛さ 黄色さ 苦しさ 煙さ 恋しさ

    動名詞
     動詞から来た名詞
    (例)
    さすらい 叱り 救い 迫り 揃い

    連結名詞
    純純名詞
    (例)
    太刀魚 千代紙 つんぼさじき 手紙 鳥籠

    名形名詞
    (例)
    情深さ 水臭さ

    名動名詞

    (例)
    腹立ち 日めくり 衾(ふすま)越し 部屋着 堀割り

    形名名詞
    (例)
    まっくろ気 少な目

    形形名詞

    (例)
    甘酸っぱさ 薄暗さ

    形動名詞

    (例)
    大入り 青刈り 赤やけ

    動名名詞
    (例)
    立ち姿 灯し火

    動形名詞
    (例)
    蒸しあつさ 寝ぐるしさ

    動動名詞

    (例)
    忍返し 保ち合い 見張り 売り上げ やぶれかぶれ とりっぱぐれ 泣き笑い
        
  11. 単一名詞中、純名詞に、送りがなは、要らない。(△2)

  12. 単一名詞中、形容名詞と動名詞には、送りがなをされよ。(△2)

  13. 連結名詞では、あとに来るほうの名詞が、純名詞であれば、そのあとに、送りがなは、要らないし、あとに来るほうの名詞が、形容名詞か動名詞であれば、そのあとに、送りがなをされよ。(△2)

  14. 連結名詞で、前のほうの名詞が、純名詞であれば、そこに、送りがなをする問題は、起こらないが、これが、形容名詞や動名詞であると、送りがなをしたものか、どうか、迷わされる。
    ここのところは、読みやすいと思うようにされよ。

  15. のみならず、テクニカル・タームには、漢字と漢字の間に かな を入れない習慣のことばがある。
    (例)
    売上げ  前渡金(まえわたしきん)  支払残

    こういったものには、かな をはさまれても、はさまれなくてもよい。

  16. 形容名詞、動名詞と、連結名詞での形容詞、動詞の部分に、送りがなをするときの、その送りがなの方法は、すべて、後記する形容詞、動詞での送りがなの方法に準ぜられよ。

  17. ただし、これにも、習慣的に、簡略した方法があるときは、それでもよい。
    (例)   1人当り

  18. の文字を、アラビア数字にしようか、漢字のにしようか、かなで、いち にしようか、迷わされることがある。
    まず、固有名詞のとき、はいけない。(△2)
    (例)
    よい   よくない
    一ッ木通り   1ッ木通り
    山本一郎    山本1郎

  19. 一般用語のとき、を代入して見て、おかしければ、とされよ。(△2)
    おかしくなければ、でも、でも、よい。
    (例)
    よい  よくない
    一大事 1大事
    世界一 世界1

  20. つぎの単語のとされてはならない。(△2)
    また、これらのなかで、青字になっている語は、すべてを、かな書きされてもよい。

    A 一応 一概 一言 一途 一存 一段 一番 一抹 一脈 一面 一物
    一躍 一様 一翼 一覧 一律 一縷 一連 一路
    B 一過 一介 一括 一挙 一向 一切 一層 一体 一旦 一端
    気一本 紅一点 精一杯
    C 一廉(ひとかど) 一際(ひときわ) 一入(ひとしお) 一筋(ひとすじ)
    D 随一 逐一 万一
    E 画一 帰一 均一 斉一 専一 択一 単一
    統一 同一 不一 唯一

  21. 以外の数についても、と同様に考えられよ。(△2)
    (例)
    よい  よくない
    六本木 6本木
    { 6大都市
    六大都市
     
    五百阿羅漢 500阿羅漢

  22. 訓の代名詞は、「かの女」というときの「女」をのぞいて、すべてかな書きされよ。(△2)
    (例)
    わたくし   われわれ、わたくしども
    あなた   あなたがた
    かれ   かれら
    かの女   かの女ら
    その    
    それ   それら
    あの    
    あれ   あれら
    かの    
    いずれ    
    いかに    
    どれ    
    だれ    
    ここ   ここら
    そこ   そこら
    あそこ   あそこら
    どこ    
    ある(SOME)    

  23. ただし、「かれ」について、「彼」と書かれてもよい。
    (例)
    彼  彼ら  彼女  彼女ら

  24. 接続詞は、すべて、かな書きされよ。(△2)
    (例)
    および  また  あるいは  
    しかるに  そして  ならびに

  25. 感嘆詞は、すべて、かな書きされよ。(△2)
    (例)
    ああ  おう  はい  
    いな  いいえ

  26. 訓の形容詞、動詞であって、その終止形をかな書きして、2文字で終わるときは、その語幹にあたる文字を、漢字とされよ。(△2)
    また、訓の文字が、副詞であるときは、これを、形容詞にしてみて、同様に判断されよ。(△2)
    (例)
    憂い  濃い  酸い
    遭う(合う、適う )  編む  
    要る  浮く  打つ(討つ)  
    生む(産む)  得る(売る)
    追う  置く(措く)  押す
    織る  買う  書く(騷く)
    嗅ぐ  貸す  勝つ  噛む
    聞く(聴く)  着る(切る、伐る)
    食う  組む  消す  蹴る
    乞う  漕ぐ  越す(漉す)
    混む  凝る  咲く(裂く)
    刺す  去る  敷く  死ぬ
    知る  吸う  好く  済む
    堰(せ)く  競(せ)る  沿う
    殺(そ)ぐ  剃る  炊く  足す
    立つ(経つ)  散る  突く
    継ぐ(次ぐ)  積む(摘む)
    釣る(吊る)  照る  問う
    説く  研ぐ  富む
    取る(採る、執る)  綯(な)う
    泣く(鳴く)  煮る  縫う
    抜く  脱ぐ  塗る  寝る  
    飲む(呑む)  乗る   這う  
    吐く(履く、掃く)  剥ぐ  
    張る(貼る)  引く(曳く)  
    吹く  伏す   踏む  降る  
    減る   干す  掘る  舞う  
    撒く  増す  待つ  向く 
    蒸す   揉む  持つ  
    盛る(漏る)  焼く  結う
    酔う  寄る(因る、依る、拠る)
    湧く  割る
     

  27. ただし、つぎのものは、かな書きされてもよい。

    言う  行く(往く)  来る  
    出す  出る  無い  為す  
    成る  見る  遣る  良い

  28. また、つぎのものは、つねに、かな書きされよ。(△2)

    在る → ある   
    居る → いる   
    為る → する

  29. 訓の形容詞、動詞で、その終止形を、すべて、かな書きしてみて、5字以上になるとき、その語幹を、漢字とされよ。(△2)
    (例)
    温かい  暖かい  甘やかす
    慌ただしい  新しい  赤らめる
    改める   表れる  現れる
    戒める  忌まわしい  潔い
    慈しむ  著しい  卑しめる
    憤る  忙しい  麗しい
    恨めしい  承る  訴える
    美しい  訪れる   陥れる
    恐ろしい  脅やかす  驚かす
    衰える  芳しい  傾ける  顧る
    省みる  考える  企てる
    狂おしい  苦しめる  覆す
    汚らわしい  快い   志す
    試みる  懲らしめる  妨げる
    虐げる  従える  退ける
    忍ばせる  唆す(そそのかす)
    奉る  確かめる  戯れる
    携える  蓄える  捕まえる
    捕われる  整える  調える
    滞る  懐かしむ  嘆かわしい
    慰める  憎らしい  辱める
    免れる  紛らわしい  難しい
    珍しい  和らげる  柔らかい

  30. 終止形をかな書きして、3〜4文字となるとき、その語幹を、漢字にするか、かなにするかは、任意であるが、同音異語がなく、また、印象上、つよい効果を期待するわけでもないとき、努めて、かな書きされよ。

  31. 活用する部分は、おくりがなされよ。(△2)
    (例)
    り  集る  上る  
    る  決る  費す  
    う  基く  分れる


  32. 形容詞、動詞のうち、「しい」「しむ」で終わるものには、活用しないにかかわらず、「し」の字も入れられよ。(△2)
    (例)
    悲しい  悲しむ
    親しい  親しむ
    惜しい  惜しむ

  33. つぎのことばは、活用しないが、かなの役目を重要視されよ。(△2)
    (1) 行
    もし、「な」を入れないと、「行って」としたとき、「おこなって」か「いって」か、わからなくなる。

    (2) みずからおのずから
    もし、「自ら」とすれば、両者の区別が付かなくなる。
    で、すべて、かな書きする。

    (3) 講
    もし、「な」を入れないと、「講(か)う」と読まれる。

    (4) 降
    もし、「り」を入れないと、「降(ふ)る」と読まれる。

    (5) 拙
    もし、「な」を入れないと、「拙(まず)い」と読まれる。

    (6) 細
    もし、「か」を入れないと、「細(ほそ)い」と読まれる。

    (7) 回
    もし、「わ」を入れないと、「回(かい)」と読み始められやすい。

    (8) ただしく まさしく
    もし、「正しく」とすれば、両者の区別が付かなくなる。
    で、すべて、かな書きする。

  34. 連結動詞の前のほうの動詞に送りがなするかしないかは自由である。
    (例)
    よい よい
    立ち入る 立入る
    追い付く  追付く
    断ち切る 断切る
    折り重なる 折重なる
    乗り換える 乗換える

  35. また、この連結動詞が名詞に転じたばあい、前半のことばに、かなを付けるか否かも、自由である。
    (例)
    よい よい
    立ち入り 立入り
    追い付き 追付き
    断ち切り 断切り
    折り重なり 折重なり
    乗り換え  乗換

  36. 漢字とかなの使い分け早見表 ( )内は意味を表す。

    ある(或)(在)  あげる(挙げる、揚げる)  あるいは
    いずこ  いま  いる(居)
    お(御)  お(於)いて  多い  大きい  おおよそ
    おける   おのずから   思う  および  御(おん)
    がいして  方(かた、がた)  がち(勝)
    けっして  げんみつ
    ご(御)  ございます  こと(事)(殊)  ごと(毎)
    ことし  こんご  こん日
    さいご
    じっさい  じつは  じき(直)
    する(為)
    ぜんぶ(全部)
    そば(側)
    たいせつ  たち(達)  ため(為)
    拙ない
    とうてい  とくに  ともに
    ないし  なかんづく  ならびに
    にがみ
    ふう(風)
    ほう(方)
    まず  また  または  まで  まっこう
    短い  みずから
    めんどう
    基づく
    やっかい
    よう(様)

  37. または」「あるいは」「および」は、もし、法令文であると漢字で書く。
    「又は」「或るいは」「及び」。
    しかし、官庁文書を含めて、法令文以外の普通文では、ことごとく仮名で書くのである。
    「または」「あるいは」「および」

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